03
その夜、三人はとある男の帰りを待ちわびていた。
誰かが階段を駆け足で昇る音が聞こえると、みな慌てて正座をして、玄関を見つめた。由依だけはふて腐れたようにタバコを吸いながら、部屋の隅っこにいた。
「おう、待たせたな」
三人の前に現れたのは、竜三の先輩である山岸という男であった。
この男、以前竜三にネズミ講の仕事を引き受けさせた胡散臭い男ではあったが、知り合いに画商がいるということで、彼に由依の絵を売り渡しに行ってもらっていた。
「ほれ、これが結果だ」
山岸は懐から数枚の札を三人の目の前に出した。
竜三はそれを受け取ると、そこに描かれている人物の姿に目を丸くした。
「しょ、聖徳太子や!」
「手数料分として、五千円貰っとくぞ」
山岸は札束の中から五千円札を一枚引き抜くと、呆然としている由依の肩を叩いた。
「おお、姉ちゃんがあの絵の作者か!いやぁ、大したもんだ。ちゃんといたぞ?目利きの画商が!
俺が睨んだところ、安くても三万だと思ってたんだがな・・・。なんと、四万の値を付けおった!」
「ごっついなぁ!」
彼の言葉に竜三と章一は声を上げて喜んだ。
「あっ、これで腹いっぱい食える!」
「俺の万年筆も引き出せるわ!」
「あっ、僕のギターも!扇風機も!」
二人が喜んでいると「すごい」とぼそっと声が聞こえた。
声のほうに顔を向けると、由依が目元を赤くして、涙を堪えていた。
「私の絵・・・、売れたんだ・・・。すごい・・・」
二人は彼女の姿を見て、心中を察し、そっとしておくことにした。