02
唯一、服を残していた由依が、荷物を抱えて質屋へと向かった。竜三がまとめた本がやけに重かったが、何一つ文句を言わずに多少の希望を持って質屋に向かった。
その道中、この辺りでは見かけない袴姿の男を見かけたが、全く気に留めることもなく、足を急がせた。
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「九百五十五円・・・」
帰ってきた由依が机の上に置いたその金額を見て、章一と竜三はがっくりと肩を落とした。
「そうか、こんなもんにしかならへんかったか・・・。あの万年筆・・・」
「申し訳ない・・・、力不足で。一応、被ってたベレー帽も全部売ったんだけどね」
「そんなんじゃ、足しにもならへんわ」
「そうだよね・・・」
水道で顔を洗っていた由依はゆっくりと顔をあげ、首元にぶら下げたタオルで顔についた水を拭くと、少し広くなった部屋を見渡した。
そしてようやく、帰ってきたときから感じていた違和感の正体に気付いた。
「あれ・・・。ねえ、私が描いてた絵は・・・?」
「えっ・・・?」
「ここに置いてあったでしょ?描きかけのやつ」
「あっ、あれまだ描きかけだったの・・・?」
驚いている二人を見て、由依は何が起こったのか、整理ができずにいた。