01
真夏日が続くある日、由依は池のほとりで出会った青年の顔を思い浮かべながら、それはそれはそっくりな似顔絵を描いていた。
よくここまで何も見ずに描けるなと章一は感心していたが、気温の暑さがそれどころではない現実に引き戻させた。
だが由依はそんなことは全く気にせずに、にやにやとしながら口を開いた。
「はぁ、達郎さん元気にしてらっしゃるかなぁ。ホントにかっこいいんだぁ。色白で、まるで銀幕スターのようで・・・。はあ、もう参っちゃうなぁ」
彼女ののろけ話は今日で十回目である。苛立ちが募った竜三は大きな声で彼女に苦言を呈した。
「聞きとうないわ、そんな話!俺ら飢え死にしかけてんやで。エロ惚けしとる場合ちゃうやろが」
竜三と章一はそれぞれが持っているものすべてを売り払うことに決め、下着以外の洋服さえも質屋に持っていく包みの中に置いていた。もちろん今着ている服も売ってしまうため、それを脱いでいる真っ只中である。
現実に戻された由依は、はぁと小さくため息をついた。
「あー、かつ丼食いたい・・・」
「うな玉丼、天丼、親子丼。これらを売って多少の金にするんや」
章一が呟いた言葉に竜三は合わせるように話し、長年愛用してきた万年筆さえも、包みの中に入れた。