06
その日、由依は公園の池のほとりで黙々と風景画を描いていた。これがいくらで売れるのか、それともいつも通り売れないのか彼女にはわからない。
だがそれでも彼女は大きな汗を流しながら描き続けていた。
すると突然「素敵だ」と背後から声がした。
何事かと思い、キャンバスに絵の具を塗る筆を止め、後ろを振り向いたその瞬間、それまで木漏れ日が差し、じめじめと暑い空気に包まれていた由依のもとに爽やかな風が吹き抜けた。
彼女の前に現れたのは、見たこともないぐらい美しい顔立ちをした二十代前半ぐらいの青年で、その綺麗な顔立ちに、由依は思わず見とれてしまっていた。
彼はじいっと由依の作品を見つめながら、とても優しい声で呟いた。
「とても素敵な絵ですね。描いてる人の美しい心がそのままこの絵に表されてます。」
はっ。と彼女は我に返った。彼は自分を誉めていたわけではなく、自分の絵を誉めてくれていたのだ。
「あげます」
「えっ・・・?」
「この絵、完成したらあげます。貰ってください・・・」
自分でも全く意識せずに、この言葉をいってしまっていた。
相手は少し戸惑っているようだったが、優しく微笑み返してくれた。