03
栄介が出稼ぎに出てから一週間後、彼らは何をしているかというと、アパートで黙々と各々の制作活動にいそしんでいた。
由依は油絵の風景画を、章一はギターで作曲を、竜三は小説のネタ集めとして聖書を読んでいた。
それぞれがいいところまで集中できていたその時、不意に誰かのお腹がぎゅぅっと鳴った。何の音かと三人とも少し気になったが、すでに分かっており、またその話に触れてしまうと自分も同じ音が出てしまうとわかっていたため、無視することにした。
しかし、再び創作活動に手をかけようとしたとき、また誰かのお腹が鳴った。
栄介が出て行ってから二、三日で用意されていた金は底を尽きてしまい、ここしばらくまともな食事をとっていなかった。
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三人はアパートから出ると、まっすぐに食堂いりやまへと向かった。ここに来れば、心優しい杏奈がツケで何でも食べさせてくれると思ったからだ。
だが引き戸を開けて店内を覗いてみると、中にいたのは店主の大介と数人の客がいるぐらいだった。
大介は店の真ん中で新聞を読みながら、足に止まった蠅をぺしっと叩き潰し、三人を一瞥すると、再び新聞に目を通しながら口を開いた。
「何の用だ」
「えっと、杏奈ちゃんいますか・・・?」
「杏奈は出前に行ってる。それがどうした」
「いえ、その・・・」
歯切れ悪く喋る章一にしびれを切らしたのか、大介は振り向いて怒鳴るように口を開いた。
「注文なら、ツケ払ってからにしてくれよ!」
「す、すいません!」
彼の剣幕に身をすくませた三人は慌てて店を後にした。
大介は再び新聞に目を通すと、あんな男が娘は好きなのかと悲しそうにため息をこぼした。