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翌日、二日酔いで頭を悩ませながらも栄介は出版社へ足を運ばせていた。
横山由依、向井竜三、井上章一たちとの同居が半ば強引ながら決まったわけだが、大人四人が集まったのだ。当然、必要となってくるのは金である。
だが栄介が日頃描いているような漫画では全く金にならない。そこで編集長の深瀬に頭を下げに来たのだ。
応接間に通された栄介は、外回りに出ている編集長の帰りを待っていた。
「なんだ、村岡君か。なに、どうしたの今日は」
いきなり現れたと思ったら、あからさまにがっかりとした顔をされ、仕舞いには目の前で煙草を咥えられた。
だがそんな態度に文句をつけられる状態ではないため、栄介は手短に用件を伝えた。
「あの、先日お話しいただいた梶川先生原作のやつ。描かせていただけないかなと思いまして」
栄介の予想では深瀬がこちらの両手を握って喜んでくれる。そんなイメージだった。だが、彼がしてきたのは怒りに近しい「何を言ってるんだ、この男は」というような表情であった。
「あのね、あんないい話、いつまでもあると思ってんの?もう他の人に頼んだよ」
「えっ・・・」
「君、いつもタイミングが悪いんだよな。今更言われたってどうしようにもならないよ」
「そこを何とか。実はちょっとお金が必要で・・・」
「また前借りする気?もうしないよ。第一、漫画描かない人に金を貸せるほど、うちも余裕無いの」
だがここで引き下がってしまったら、金を工面することはできない。どうにかして仕事を得たいと栄介は彼に泣きついた。
「あの、ちょっと、“同居人”が出来まして・・・」
「同居人?ああ、女?」
「いえいえ、違います」
由依は女性だから違うことはないのだが、そこを説明すると面倒なことになりそうだったため、黙っておくことにした。
「ふぅん、まあ日銭がほしいんだったら、宛がないことでもないけど。それでもいいんだったらやる?」
彼の問いかけに栄介は二つ返事で即答した。
「やります。やらせてください!」