09
酒を買いに、部屋を出て階段を下りていくと、水たまりの近くに野良犬が一匹座っていた。ここらではその犬のことを「ノラ公」と呼び、たまにしか現れない彼(もしくは彼女)に慣れ親しんでそう名付けていた。
栄介もそのうちの一人で、ノラ公を見つけた彼はその場にしゃがみ込み、犬の首を撫でた。
「ノラ公、元気だったか?ちょっと痩せたんじゃないの?」
そう言いながら撫でていると、大きなキャペリンハットを被った女性がゆっくりと彼に近づいて、そっと後ろに立つと、彼女は栄介に声をかけた。
「村岡さん」
その声を聞いて、慌てて振り向くと、やはりそこには見覚えのある女性が立っていた。
「麻衣ちゃん・・・?」
以前見た彼女とは少し、いや全くと言っていいほど雰囲気が違っていて、高級感漂うワンピースに大きなキャペリンハットを被っていたのは、栄介の元恋人でもある白石麻衣だった。
「お久しぶり」
よく見ると、綺麗に化粧までしている。今まで見たことない彼女の姿に栄介は少し口を開かせていた。