05
外はすっかり雨も止み、夏の近づきを知らせているのか、コオロギの鳴き声が聞こえた気がした。
栄介の住む部屋には、由依と竜三の二人が加わり、彼が漫画のネームを使い古したノートに書いている間、二人はのんびりと将棋を一局打っていた。
しかし由依の方に全く将棋の才能はなく、これまで四度も対局を打って、一勝も出来ていなかった。
そして迎えた五回目、再び彼女は王手のピンチを迎えていた。
「ま、待った!」
「何回待った使うねん」
「ちょっと待ってくださいね・・・」
「”待った待ったは堀部安兵衛”やで・・・」
竜三は山積みの灰皿の中から、まだ使えそうな煙草を探し、咥えるとそれに火をつけた。
「考えなくちゃ・・・」
「せやな。いくらなんでもそろそろ考えんとな」
「晩飯のことですよ、私が言ってるのは」
「俺かて、そや」
二人は揃って漫画を書くのに夢中になっている栄介の背中を見た。
すると彼らの視線に気づいたのか、栄介はぼそっと口を開いた。
「押し入れ開けてもらえる?」
「えっ?」
「押し入れ」
竜三は立ち上がって彼の言われた通りに押し入れを開けた。すると中には扇風機が一つ寂しく置かれてあった。
「そいつを飯に変えよう」
栄介の言葉に二人はキョトンと目を丸くさせていた。