07
阿佐ヶ谷駅近くにある食堂いりやまにて、村岡は手伝ってくれた三人にバイト代を支払っていた。
「約束のバイト代、一人二千円ずつ」
「おおきに」
「みんな本当にありがとう。助かりました」
村岡が頭を下げると、人のよさそうな青年の井上が優しく答えた。
「いえ、こちらこそ。僕たちもお金に困っていたわけですから」
「ありがとう、章一君」
するとボサボサ頭の向井が眼鏡をくいっと上げ、村岡に尋ねた。
「どないです、漫画家って儲かりますの?」
「エログロならね。児童漫画は全然ダメです」
「油絵はもっとダメ・・・」
村岡の言葉に横山は自嘲するように言って、少しうつむいた。そんな四人の前に注文のカツ丼が杏奈の手によって運ばれてきた。
「はい。お待たせカツ丼、四人前」
「ありがとう、杏奈ちゃん」
「アルバイト見つかってよかったわね」
「あっ、すいません・・・」
杏奈は横山にやさしく微笑むと、ちらりと井上に視線を向け、厨房へと戻っていった。
「なんや、あんたが無銭飲食しはったのって、ここですの?」
「栄介さんに立て替えてもらって・・・」
「ついでにそのまま引きずり込んだんです」
「僕に声かけたのはなんでやの?」
「ほら、喫茶店の奥の席でいっつも何か書いてるでしょ?」
村岡がそう尋ねると、向井はボサボサの頭を恥ずかしそうに掻いた。
「小説ですわ、ちょいと長いのをね」
「ちょうど人手に困ってた時、向井さんを見たら、ウエイトレスのこみちゃんに新聞借りて、求人広告か何かをメモしてましたよね?」
「ははっ、実は定職は持たん主義でね」
「だからこの人に頼んだら、絶対協力してくれるだろうなぁって、そう確信したんです」
村岡の言葉に納得したのか、向井は一笑するとカツ丼を口の中にどんどんかき込んでいった。他の三人も同様に、夢中になってかつ丼を食べていた。