06
それから数時間後。向井、井上、横山の三人は川沿いにある土手に座っていた。それぞれ向こう岸を見つめたり、下にある小石の形を観察したり、煙草を吸いながら橋を渡る人たちを観察したりと別々だったが、頭の中に思い浮かべていることは三人とも共通していた。
すると曲がり角から村岡が現れ、彼らに手を振ってやってきた。
「みんな!お待たせ!」
「村岡さん!どうでした・・・?」
「無事、母の入院が決まりました」
「よかった、やりましたね!」
彼らは立ち上がり、村岡のもとへと集まった。村岡が橋のほうへ歩き出したため、彼らもそのあとに続いた。
「いやあ、ホント救急車の中は冷や冷やものでしたよ・・・」
向井と一緒に救急車に乗り込んだ横山がそう呟いた。救急隊に素性がばれたりしないかどうか気が気でなかったらしい。
すると何かを思い出したかのように、彼女は向井に尋ねた。
「そういえば、なんて書いたんですか?」
「何がや?」
「救急隊の人にカルテに病名書いてくださいって頼まれたとき。ドイツ語で何か書いてたじゃないですか」
「ああ・・・。“ダンケシェーン”」
「えっ、どういう意味?」
すると彼の言葉を先に理解した村岡が代わりに答えた。
「“ありがとう”ってこと」
それを聞いた彼らは思わず笑みがこぼれ、笑い声をあげていた。