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村岡と向井が待つ大宮駅に夜行列車が到着した。村岡はよれよれに曲がっていた向井のネクタイをきちんと締め直すと、彼とアイコンタクトを交わし、列車の中に乗り込んでいった。
奥へと進むと、彼の妹が廊下できょろきょろと誰かを探しながら待っていた。
「咲良」
「あっ、兄ちゃん、こっちこっち。母ちゃん、兄ちゃん来たよ」
個室に入ると、一人の女性が仰向けになって寝台の上で寝転がっていた。村岡は少し腰を落とし、彼女に視線をできるだけ合わせた。妹の咲良は寝転がっている母の汗を、手拭いで拭ってあげた。
「思っとったより、元気そうやないけ」
「ふふっ、まだ死ねんよ」
「インターンの先生にも来てもらったから。日東大付属病院の向井先生」
そう言って村岡は後ろに立つ向井に視線を向けた。それと同時にその部屋にあったすべての視線が一斉に彼に集められた。
「はじめまして・・・、向井です・・・」
彼は固まった表情のまま、ぎこちない会釈をした。
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そのころ、板橋駅にて待機していた井上と横山は駅から担架を担いで出てきた駅員とその上司らしきもう一人の駅員と対峙していた。
「君たちが重病患者の搬送を依頼されてきたお医者様ですか?」
「はい」
「失礼ですが、どちらの病院の方ですか?」
「はい、板橋の日東大付属病院のインターンなんですが、うちの病院に入院予定の重病患者を迎えに来たのですが・・・」
横山は上司らしい駅員の顔を一切見ることなく、どこか別の場所を見つめたまま話した。疑いの眼差しを向けている彼の目を見ると、間違いなくボロが出てしまうと自分でもわかっていたからである。
そんな不自然な喋り方ではあったが、なんとか騙し通すことに成功し、無事に次に板橋に到着予定の夜行列車から患者を担架に乗せてもらうよう説得することができた。
ホームに向かう道中、横山は井上に最後の確認をした。
「救急車の手配は・・・?」
「定刻通りに」
二人は最後の最後まで気が抜けない状態のまま、駅のホームへと向かった。