01
1960年代後半、東京五輪が無事に閉幕し、日本は更なる景気復興をめざし、活気づいていた。
そんな中、とある車両倉庫に5、6人ほどの男女が息をひそめて隠れていた。
「これから僕らは一世一代の大嘘をつく。もしバレたら、全員ブタ箱行きだ。それでもいいという覚悟がある人だけ、僕の後についてきてくれ」
そう言い残し、村岡は隠れていた倉庫を出て、ひとり歩きだした。その後を一人、また一人とついていく。なぜ彼らがこれから一世一代の嘘をつく羽目になったのか。それは一週間前に話をさかのぼる必要があった。
一週間前。
村岡は食堂いりやまにやってくると、いつもの通り、真ん中の二人掛けの席に座った。何を食べようか悩み、隣に座る女性が美味しそうにかつ丼をほおばっていたのを羨ましく思いながらも、いつものように肉そばを注文した。
「はい、肉そばお待ち」
商品を運んできた店員の杏奈に礼を言い、村岡は割り箸をきれいに半分に割ると、両手を合わせ食材をいただくことに感謝した。そばを一口すすると「仕事終わり?」と杏奈が尋ねてきた。そんなこと聞かずに、早く仕事に戻ればいいのに。と思いながらも、村岡はそばを啜りながら律儀に答えた。
「さっき出版社に原稿出してきた」
「どうだって?」
「詰めが甘いってさ。見たことある画風だって言われたよ」
「またダメだったんだ」
杏奈は笑いながら、食堂を後にした客たちが座っていたテーブルを布巾できれいに拭いていた。この会話が何度行われただろうか。正直、村岡はそろそろこの展開に飽き飽きしていた。
「今回は自信あったんだけどね」
「それ前にも同じこと言ってたよ」
「そうだっけ」
「もう忘れてる時点で駄目だよね」
杏奈は呆れたように厨房へと戻っていった。村岡はその後ろ姿を見送り、一つため息をつくと再びそばを口にした。