第3章 お祭りのあとに
07
買ったばかりの缶コーヒーを一口飲む。まだ身体のどこかに心地よさが残っている。
ハリウッド映画の試写会のようにスタンディングオベーション、とまではいかなかったけどそれでも劇のエンディングで俺たちに向けられた拍手や歓声は今までに味わったことのないものだった。
校舎の時計は十九時を差そうとしている。文化祭最終日は十七時に全ての出店や出し物が終了して後片付けをした。そしてこの後、ある意味文化祭のメイン企画である後夜祭が始まる。季節外れの打ち上げ花火や全生徒の目の前での公開告白が行われたりして去年の後夜祭もとても盛り上がっていたのを覚えている。


「ねー彩、早くしないと後夜祭始まるよ!」

「分かっとる!今行くわ!」


ほとんどの生徒が後夜祭の会場のグラウンドに急いで向かっている中、俺は一人ゆらゆら火が燃えている焼却炉の前に立っている。劇で使用した大量のダンボールたちを処分するために。普段は焼却炉で物を燃やすのは禁止されているが、一年に一回文化祭の最終日だけは大量のゴミが発生するので焼却炉でそれらを燃やすことが許されている。
これまでたくさんのクラスがゴミを燃やしたせいか焼却炉の中は黒く焦げた灰で溢れている。ダンボールをちぎりながら燃やしていくとどんどん火は大きくなっていった。
俺は財布の中から一枚の紙切れを取り出す。結局渡すことが出来なかったチケットはもう何の価値もない紙切れになってしまった。その紙切れを焼却炉に投げ入れる。燃えにくかったダンボールと違ってその紙切れは一緒で灰になった。
ぬるくなってしまった缶コーヒーを飲み干し、空き缶入れに投げた。空き缶は外れてカランカランと音を立て地面に落ちた。

「ゴミはちゃんと捨てなきゃ駄目だよ。」

ふと俺の後ろからこの三日間ずっと聞きたかった声がした。振り返ると空き缶をきちんと拾って捨てている島崎さんがいた。

「ありがとう、島崎さん。」

島崎さんもクラスの後片付けで出た大量のゴミを抱えている。そして俺の横に並ぶと同じようにゴミを燃やし始めた。しばらくの間、二人とも無言でゴミを燃やし続けた。

「えっと……、友達から聞いたけど、ハンバーガー買いに来てくれてありがとう。」

沈黙に耐えれなかったのか島崎さんが口を開いた。

「え?あぁ、美味しかったよ。」


そしてまた沈黙が続いた。島崎さんはずっと焼却炉を見つめたままだ。
今度は俺が我慢出来なかった。

「あの島崎さん!劇のチケット渡せなくてゴメン!中々出会えなくて……。」

俺は島崎さんの方を向いて頭を下げた。ようやくこちらを向いた島崎さんは焼却炉の火に照らされて顔が赤くなっている。

「私たちってこの場所でしか会えないね。」

「そうだね……。」

「でも、会えなかったけど……会えなかったけど、ちゃんと観てたよ。」

笑顔でそう言った島崎さんは一枚の紙切れを渡してきた。

「これって……。」

「あーシンデレラ本当に美人だったなぁ。」

その紙切れは俺たちの劇のチケットだった。それも入場した印のスタンプが押されている。

「観に来てくれたんだ。」

「約束したからね。誰かさんのせいで王子様に当たってたライト少しズレてたよ。」

「ありがとう、俺すごい嬉しい。」

えへへ、と笑う島崎さんは再びゴミを燃やし始めた。俺は島崎さんから貰った今はもうただの紙切れを空っぽになってた財布に大切にしまった。
少し離れたグラウンドからは公開告白によってカップルが成立したのか、大きな歓声が聞こえた。
BACK | INDEX | NEXT

■筆者メッセージ
いよいよ夏本番ですね。
バンバンバン ( 2014/08/01(金) 17:18 )