03
いつもは制服姿の生徒しかいなくて白か黒しか色がない校舎が今日は色とりどりの人がたくさん歩いている。毎日歩いている廊下が狭くて通りにくく感じる。学校全体を使って出店や出し物を行っているこの文化祭は何処かのテーマパークみたいだ。
「チーズバーガーとポテトください。」
会計を済ませようと財布を広げると三枚の紙が入っている。一枚はお札、一枚は上西さんから貰った音楽祭のチケット、そして最後の一枚はプレゼントする相手が決まっている俺たちのクラスの劇のチケット。ハンバーガーを買うためとこのチケットを渡すために2年10組の教室にやって来た。
「500円になります。」
会計係の子にお札を渡して財布の中の紙は二枚になった。会計係の子からおつりを受けとる。チーズバーガーはもう少し時間がかかるみたいだ。奥の方からは香ばしいチーズの香りが伝わってくる。
「あの、島崎さんて今いますか?」
この教室に入ってからチケットを渡したい相手を一度も見ていないので聞いてみた。
「島崎さん?ああ、ぱるるね。ちょっと待ってて。」
そう言って会計係の子は奥の方に消えていった。ぱるるとはアダ名だろうか。あの焼却炉でしか島崎さんに会ったことがないから、島崎さんが教室でどんな立ち位置なのか、どんな風にクラスのみんなと接しているのか全く想像出来ない。
「ごめんなさい、ぱるる今はシフトに入ってないからどっか行っているみたい。」
出来上がったチーズバーガーとポテトを手に持った会計係のが申し訳さなそうに出てきた。島崎さんにチケットを渡せず残念だなと思いつつ、ありがとう、とお礼をして商品を受けとり教室を出た。
結局その後も島崎さんを探しながら校内を歩き周ったけど彼女に会うことは一度もなかった。財布の中の紙は島崎さんに渡したいチケット一枚だけになってしまった。
「結構人多いね。」
「俺たちの劇もこのくらい来てくれないかな。」
隣で入山と高野がどこかのクラスから買ってきたタピオカジュースを片手に話している。
普段はバスケ部やバレー部が使っている体育館もこの三日間だけはバスケットボールが地面に叩きつけられる音が響くこともなく、姿を変えたように映る。音楽祭は文化祭のメイン企画の一つみたいでたくさんの人が体育館に集まっている。吹奏楽部の演奏は一番最後で、現在は軽音楽部や参加志願のバンドによるライブの真っ最中だ。
「これ美味しい!山下も一口飲む?」
飲みかけのタピオカジュースを差し出してくる入山。横に彼氏がいるとか関係なく、素直に美味しいから飲んで欲しいと思っているのだろう。そこが入山の良いところだと思う。
「みんな今日は来てくれてほんまありがとう。最後の曲や。聞いてください。」
ステージ上では二組目のバンドが最後の曲に入った。おそらく三年生の先輩であろう関西弁で赤いギターが似合っているボーカルの女の子の歌声が体育館中に響き渡る。とても綺麗な歌声だ。
「ねえ飲まないの?」
もう一度入山がきいてくる。
「うん、喉乾いてないから大丈夫。」
高野に気を遣い俺はそう答えた。美味しいのになーとつぶやく入山の横で高野は俺を見てはにかんでいた。