02
「杏奈、山下くん、おはよう!」
まだ空席が目立つ教室に毎日誰よりも早く登校している上西さんは当たり前のようにいた。
「おはよう恵〜今日も早いね〜。」
「おはよう。」
女子特有のボディータッチを含めたあいさつをする二人を横目に自分の席に向かう。なぜあいさつ一つであんなにはしゃげるのか理解出来ない。
「はいこれ。山下くんにもはい。」
ふと上西さんは財布の中から紙切れを一枚ずつ俺と入山に差し出した。
「何これ?」
「えっとな、今日の夕方体育館でな音楽祭があるんよ。そのチケットやねん。」
「もしかして上西さん出るの?」
「うん。この間言ってたコンクールのメンバーには選ばれへんかったんやけどな、補欠組でやる文化祭のメンバーにはなれた。」
「そっか、観に行くから頑張ってね恵!」
入山が言った。頑張ってね、俺には言えなかった。上西さんはたくさん頑張ってきた。誰よりも早く学校に来ては練習して、誰よりも遅くまで学校に残って練習していた。それなのに大観衆が観にくるコンクールのメンバーには選ばれなかった。音響設備も大したことのない体育館で行う演奏のメンバーに選ばれた。
俺だったら悔しい。頑張ってねなんて言われたくない。
「俺も観に行くよ。楽しみだな。」
散々考えて出た言葉だった。
「はーい、みんなおはよう。」
朝のホームルームのチャイムが鳴って十分ほどしてから篠田先生が教室に入ってきた。本当にこの人は時間通りにやって来ない。いつもはパンツスーツ姿の篠田先生も今日はTシャツにジャージとラフな格好をしている。
「いよいよ文化祭です!」
元気の良い先生の一声に教室中からイェーイと声が上がる。
「まぁ5組の劇は最終日だから今日と明日は部活の出し物や他のクラスの出し物を楽しみなさいね。」
劇をすることに決まり、クラス全員が参加出来る時間帯を調べたら三日目、最終日の午後だった。でも、その時間帯に体育館を利用したいと申請していた部活やクラスがほかにもあった。顧問の先生や担任の先生によるくじ引きの結果、見事に体育館の利用権を引き当てたのは篠田先生だった。
「じゃあ最後にクラスリーダー、あいさつして。」
「えっ!?」
急に話を振られた俺は焦ってしまった。
「びしっと決めてこいよ!」
高野に背中を押されしぶしぶ教壇に上がる。
「えーと、今までみんな精一杯練習してきました!自信を持って、最高の時間を一緒に過ごしましょう!」
俺の呼びかけにさっきよりも大きな声が教室中から溢れた。たぶん廊下を通して他の教室まで聞こえちゃっているだろうな。