01
冬の足音がしっかりと聞こえてくるようになった。夏服と冬服が入り混じっていた校内の景色はすっかり冬服一色になってしまった。
廊下を歩いていると通り過ぎていく教室からたくさんの大声が聞こえてくる。
「だからおばけのメイクはもっと丁寧にして!美術部なんだから出来るでしょ!」
「予算は多くないから出来るだけ安いスーパーで食材調達してよね!」
カレンダーのページはあっという間に巡られていき11月になった。文化祭まで残り二週間を切った校内は放課後になるとせわしなく人が動いている。
2年生の各クラスの催し物は各クラスの話し合いにより、お化け屋敷・クレープ屋・占いの館などに決まったらしい。ほとんどのクラスが自分たちの教室で準備を進める中、俺たち2年5組の生徒は体育館に向かっている。
数週間前、ホームルームの時間を使って文化祭についての話し合いが行われた。
「2年5組で何をしますか?意見がある人はどんどん言って下さい。」
話し合いの司会はもちろんクラスリーダーの俺だ。
「はいっ!メイド喫茶!」
「おっいいなそれ!」
高野を中心とした男子たちが勝手に盛り上がってどんどん案が出てきた。そのほとんどが実現不可能な案であったが、喫茶店という唯一無難ではあるが実現可能な案が残った。
「じゃあ喫茶店で決まりということで……。」
「ちょっと待って!」
俺が話をまとめようとしたらそれまで黙っていた神村くんに遮られた。
「ウチのクラスって半分以上の人が部活やってるよね?毎年ほとんどの部活も何かしら文化祭で出店とかしてる。だから、喫茶店だと3日間のシフト作るの大変じゃない?」
このクラスの良い点であり、文化祭期間に限っては悪い点をはっきりと指摘されてしまった。
「確かに……。喫茶店だと帰宅部組の負担が大きいかも。」
入山が神村くんの意見に同調した。ほかの部活に入っていない生徒たちも無言でうなづく。
「うーん、どうしよう。上西さん、何か意見ない?」
入山以外ほとんど発言していない女子たちの意見が聞きたくて上西さんに振って見た。上西さんはしばらく考えこんだあとクラス中を見渡した。
「えっとな私、劇がやってみたい。3日間でみんなが集まれる時間に1公演だけ。みんなが知っているような童話やったらええんちゃう。それやったら練習時間も少なくてすむし。どうやろか?」
しばらく沈黙が流れた。誰も微動だにしない。みんな真剣に上西さんの案を吟味している。
「うん……!賛成!」
「私も。」
「俺もやってみたい!」
これまで一部の席からしか聞こえなかった声をようやく教室中から聞くことができた。それも全部上西さんの案に賛同したものばかり。こうして2年5組の文化祭は演劇をすることに決まった。