第2章 boy meets girl 時々
04
島崎さんの背中が夕陽の中に完全に消えて行ってしまった。島崎さんは電車通学をしているといつか聞いた。最寄りの駅まで自転車を押して一緒に帰るという選択肢もあった。だけど俺にはその選択肢を選ぶ勇気がなかった。それをしてしまうと、この程よい関係が崩れてしまう気がするから。この焼却炉でたまに会えるだけで充分だ。
手に持ったままだったCDをしまおうとカバンを開けるとあるはずのウォークマンがない。どうやら教室に忘れてきたみたいだ。明日まで音楽が聴けない生活など考えられないので教室まで取りに戻りに歩き始める。

もうほとんどの生徒が帰ってしまった校内は昼間とは百八十度変わって見える。物音一つしない廊下はどこまでも続いていくのではないかと思ってしまう。ただそんな中一箇所だけ光が漏れていた。2年5組、ウチの教室だ。
いったい誰がまだ残っているのだろうと思い、そっと覗いてみると眼鏡が似合った男の子と黒い髪をなびかせた女の子がいた。二人ともよく知った顔だ。

「もう三十分もじっとしたままやで。なんか話があるんやろ?」

開いている窓から外に顔を出したまま女の子が言った。

「うん……。」

男の子は窓から一番近い席に座ってうつむいている。
この光景を見て俺は全てを悟った。告白の瞬間に立ち会ってしまったんだ。あの様子がおかしいと思ったのはこのせいだったのか。
つい、頑張れと心の中で呟いた。俺のエールが届いたのか、ようやく決心がついたのか、男の子は立ち上がった。

「僕は今まで勉強ばかりしてきた。友達もいなかった。クラスでも孤立してきた。でもね、この2年5組は違った。こんな僕を受け入れてくれた。それも君が一番に受け入れてくれた。僕が一人でいると、いつも声をかけてくれたね。いつからか僕は君の姿をいつも追いかけてる。君のことが好きなのかもしれない……。」

「ふふふ。なんやそれ、告白なん?」

「一応……。」

俺は盗み聞きなんて駄目だとは思うけど、どうしても結果が気になってこの場を離れることが出来ない。

「そっか、ありがとう。でもごめんな、今は恋愛よりも吹奏楽に集中したいねん。」

女の子はしっかりと男の子を見つめ直し続ける。

「お母さんたちにはわがまま言って滋賀から受験させてもらったし、私のことを応援してくれる二人のファンもおるし。」

「二人のファン?」

「うん、彼氏の部活が終わるまでの暇つぶしで私の演奏を聴いてくれるリア充女子と、誰よりも早く私の演奏を褒めてくれたいっつも何考えてるのか分からない男子。二人とも大事なファンやし友達やねん。二人のためにももっともっと頑張りたい。」

「そっか!分かった。残念だけど、ちゃんと僕の想いを伝えられたからすっきりした。最後にもう一回だけはっきり言わせて。好きだよ、上西さん。」

そう言った神村くんは教室から飛び出して行った。目には涙が浮かんでいたけど口元は笑っていた。

「ありがとう、神村くん。」

そう言う上西さんは涙はなく、とても嬉しそうな笑みがこぼれていた。


■筆者メッセージ
今日は終業式でした!
バンバンバン ( 2014/07/18(金) 22:14 )