05
「失礼します。」
面談を行っている相談室の扉を開けると、コーヒーカップを片手に持ちソファーに腰掛け脚を組んでいる女王様の様な篠田先生の姿があった。
「次は山下か。そこに座って。」
篠田先生と向き合う形で座ると早速面談は始まった。
「最近の学校生活はどう?楽しい?」
「うーん、普通ですかね。可もなく不可もなくって感じ。」
「そっか……で、君の進路希望の ‘‘わからない’’ って何?」
篠田先生はテーブルの上に1枚のプリントを差し出した。二学期の始業式の日、2年生全員に配られた進路希望調査のプリント、俺は記入欄に ‘‘わからない’’ とだけ書いて提出した。
「他のみんなは大まかでも自分の進路について考えてるよ。進学か就職かくらいは。」
「いや、本当に自分でもわからないんです……。1年後の自分がどうなりたいのか。明日の自分の姿すら。」
俺は思わず本音をぽつりと言ってしまった。篠田先生はコーヒーを一口口に含み頭をかきながら澄んだ瞳で俺をしっかりと見つめてきた。
「私もさ、教師になって5年くらいしか経ってないけどあんたみたいな生徒は初めて見たよ。部活動が盛んな学校で部活にも入ってない。学力がトップレベルでもなければ、悪くもない。優等生でもないし、不良でもない。自分から周りに話しかける人でもない、けど周りから避けられている人でもない、むしろ友達は多いよね。本当不思議な生徒。」
この人は思っていることを何でもズバズバ言う先生だ。それにクラス全員の様子を毎日しっかりと観察している。時間に少しルーズな点を除いたら2年5組の生徒は篠田先生のことを決して悪く言わないと思う。
「ねえ山下。あんた今度の文化祭、クラスリーダーやってみない?」
「はぁ!?なんで俺が?そんなの神村くんとか高野の方がピッタリですって。」
毎年11月下旬に開催される文化祭。県外からもお客さんがくるほどの大きなイベントだ。各クラス、クラスリーダーを中心に出店や出し物を準備するのだが、ウチのクラスはまだクラスリーダーは決まってない。
「あんたこれまでに何かに真剣に打ち込んだことないでしょ?それがコンプレックスでそういう人たちに実は憧れているの。高野は野球、神村は勉強、上西は吹奏楽、入山は……恋愛かな?」
「俺に聞かれても……。」
「まぁとにかく!一回必死になってみてよ。そうしたらきっと世界が変わるから。やりたいことも見つかるって!」
言いたいことを全て言い終えたのか先生は満面の笑みで残りのコーヒーを飲み干した。
「クラスのみんなを俺がまとめられますかね?」
「大丈夫!むしろみんなついて来てくれる!」
「その自信の根拠は?」
「山下の担任がすごい可愛いから。」
「なんすかその理由。」
俺が苦笑いをしたのと同時に6限目の終了を告げるチャイムが鳴った。
教室に戻るとホームルームが始まり、先生からの連絡事項で文化祭クラスリーダーを俺が務めることが発表された。篠田先生に促され前に出て軽くあいさつをすると教室中から拍手が起きた。
篠田先生はしてやった顏で教室を見渡していた。