第1章 陽に映える少女
01
少し開いた窓から肌寒い風と野球部の暑苦しい掛け声が入ってくる。廊下のほうからは夏服と冬服の女子2人組の話し声が聞こえてくる。

「たくっ、集中出来ねえな。」

シャーペンを数学のノートに放り投げ、ズボンのポケットからiPodとイヤフォンを取りだし、昨日買ったばかりのお気に入りのバンドのアルバムを再生する。今年の夏休みはこのアルバムを買うのと、冬にあるライブに行くために必死でバイトをした。労働内容の割に時給は低かったけど、たくさんの知り合いも出来たので良い思い出になった。
ボーカルの透き通るような歌声が体中に響いてきてもう一度集中して問題を解こうとしたら誰かに頭を叩かれた。
振りかえってみると、

「げっ!?篠田先生…」

すらっとした長身の女性がスーツの袖を折り曲げながら不敵な笑みを浮かべている。
担任の篠田麻里子だ。

「放課後に夕陽に照らされた教室で音楽聞きながら、やって来なかった宿題をする少年は絵になるな、山下くん。」

手でカメラのポーズを作る先生の口元は笑っているが目は笑ってない。

「いや、音楽聞きながらのほうが集中出来るんす………すみません。」

誤魔化そうとしたけど、すぐに頭を下げたほうが得策だと察した。

「そのすみませんは、宿題を忘れてきたことに?教室で音楽を聞いていたことに対して?」

いつの間にか先生は隣の席に座っている。

「りょ、両方に対してです。」

今度は立ち上がり、しっかりと姿勢を正してもう一度頭を下げた。
先生はニコッと笑い、

「素直でよろしい!今日はもう帰っていいから、これ帰りに焼却炉に捨てといて。」

そう言って、掃除時間にまとめられていたゴミ袋を俺に渡して教室の戸締まりを始めた。
俺は慌てて帰り支度をして先生を手伝う。窓の外にはまだ野球部が練習をしている光景が広がっている。
率先して声を出している坊主頭はおそらく同じクラスの高野だろう。

「高野のやつ、ずいぶん張り切ってますね。」

「そりゃあ、3年生が引退して新キャプテンになったからなぁ。数学の授業中もあの張り切りようなら嬉しいのになぁ。」

高野は野球推薦で入学したため勉強のほうはレギュラーというよりはベンチが似合っている。

「よし!戸締まりOK!帰ろうっと。
山下、明日は宿題忘れちゃ駄目よ。」

「………はい。」

俺は先生に届いたかわからないくらいの声で返事をして、廊下に消えていく篠田先生の背中を見送った。


■筆者メッセージ
今日から書きます。よろしくお願いします。
バンバンバン ( 2014/07/07(月) 19:31 )