6話
もう何球目になるのか、和哉は祐介のストレートをカットしている。インコースは三塁側ベンチに、アウトコースは一塁側ベンチに打ち分け、次第に打球のスピードは上がっている。
自慢のストレートを和哉に何度もカットされ、祐介は冷静さを無くし、元宏が出すサインを無視している。さすがに我慢できなくなった元宏はマウンドに行く。
「祐介、サイン通りに投げろ!」
「うるさい!岡田みたいな運動音痴をストレートで打ち取れなくて、甲子園なんか狙えるか!」
意固地になっている祐介は、元宏のサインに従おうとしない。元宏は、祐介の気持ちはよく分かっているのだが、それよりも、期末テストでの条件を少しでもクリアできるようにと、考えている。
「良いから俺のサイン通りに投げろ。勝った後で、もっと有利になる条件で勝負すれば良いだろ」
「分かった」
不満そうにしているが、祐介はサインに従うことを了承し、マウンドから戻った元宏は、ミットを構える。
和哉「これからは変化球も投げてくるんだ」
「さぁな、どうだろうな」
元宏がミットを構えると、祐介は外角低めにストレートを投げる。
「バシッ」
「ストライク、バッターアウト」
和哉に変化球を投げると思わせ、祐介にストレートを投げさせた元宏。裏をかかれた和哉は、ただ見送ることしかできなかった。
和哉「やってくれたな」
「変化球投げるって言ってないだろ?」
祐介が投手として活躍しているのは、元宏のリードのおかげ。しかも、和哉をストレートで打ち取りたいという、祐介の希望を叶えて。
「バーカ、バーカ。お前ごときが、俺からヒットを打つなんて百年早い」
自慢のストレートで和哉を打ち取れて満足したのか、祐介は丸で子供のように和哉をバカにする。
「アイツは子供か・・・」
和哉「・・・・・・・・・・・・・・・」
元宏は、祐介を苦笑いしながら呆れ、バカにされた和哉は恐い目付きで祐介を睨み付ける。
「次は三球三振にしてやるよ」
調子に乗った祐介は、三球三振にすると予告。更に和哉を怒らせる。初球のカーブ、二球目のスライダー、それらには微動だにせず、見送り、三球目。初見のフォークを和哉はジャストミート。打球はライナーで祐介の鳩尾に当たる。
「おい、祐介大丈夫か?」
元宏が駆け寄ると、祐介はボールを見せる。
「運動音痴のクセに、強烈なの打ちやがって。死ぬかと思った」
鳩尾にボールを喰らいながらも、ボールを落とさなかった祐介。ダメージが大したこと無いと分かると、元宏はポジションに付き、ミットを構える。
和哉「20cm下を狙ったんだけどな〜。ま、的に当たっただけマシか」
祐介のことを的と言った和哉に、元宏は思わず和哉の顔を見る。普通であれば、一応謝り、心配するが、和哉は何事も無かったかのように平然と構えている。寧ろ、なかなか起き上がらなかった祐介にイライラしていたくらいだった。