第9章 キスと変わらないもの
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俺は離れていく遥香を追いかけなかった


ただ自信がない

この気持ちがなんなのか
分からないから



俺はそのまま立ちつくすだけだった



「うっ……」


突然体に衝撃が加わると
同時に俺の体は体育館に転がっていく


「………いってぇーな
なにすんだよ」


俺を突き飛ばしたのは
まぎれもなくあいつで


「お前なにした?」


「なんだよ、潤一
まだ帰ってなかったのか?」


「そんなことどうでもいい
お前島崎になにした?泣いてたぞ」


「………」


「何したって聞いてんだよ」


潤一は俺のシャツの首元をつかんで
持ち上げた


俺はその手を払いのけた


「付き合うのか?島崎と」


「何言ってんだよ……潤一」


潤一の言ってることが分からなかった

こっそり今の話を聞いていたとは
思えない


「告られたんだろ?」


「…………」


「島崎が前からお前のことが好きなことくらい
分かってんだよ」


「………」


「それで、お前めんどいとかって言って
振ったんだろ?」


「まっ、待てなんか勘違いしてるだろ?」


いつもの潤一の目とは違った
だからこいつの遥香を想う気持ちは
本当なんだと改めて思う



「勘違いなんかしてねーよ」


「まぁ、でも告られたよ
でも、別にめんどいとかって言ってない」


「なら、なんで泣くんだよ」


「奈々未のこと聞かれたんだ」


「奈々未……」


「この前キスしたところ見られてたんだよ
それで、俺がはっきりしねーから泣き出した」



俺がはるかにひどいことを言ったという
疑いは晴れたが
まだ潤一の顔は怖い


「お前は、我慢がたりねーよ」


其の言葉と同時に
いつもの潤一の顔になる


「そうだな」


潤一はふっと笑って
俺の近くに会ったモップを取って
かけ始めた



「本当は言おうか迷ったよ」


「それは言うな!」


「…………」


「セフレがいるなんて島崎が抱えれる容量を超えてるし
それに、お前は言うことですっきりするかもしれないけど
困るのは島崎だから」


確かにそうだ


遥香にとって
そんな中途半端なことを知ったところで
そのやり場に困る


「で、実際どう思ってんだよ?」


その様子だと気づいてるかもしれない

俺が遥香を好きかもしれないって


「分かんねー」


「分かんねーって」


「俺はさ…………たぶん
もう、付き合わない」


潤一は驚くでもなくて
ただ黙って聞いている


「俺はたぶん付き合うとか向いてないんだよ
だからもっと大人になってからでいいんだ………」



「でも、お前と島崎が付き合ったら
すげー腹立つんだ」


「なんだよ、それめちゃくちゃじゃねーか」


「だな」


「まぁ、お前の気持ちが変わった時には
もう遅いかもな」


「なんだよ、それ」


「だって、俺は告白してるからな
それに今付き合わないって決める必要ないんじゃねーの」


「そうだな……」

自信満々に言う潤一が面白くて
俺と潤一は
二人しかいない体育館で笑いあった


■筆者メッセージ
やっとここまで来ました
また頑張ります
ライト ( 2016/01/31(日) 21:28 )