第9章 キスと変わらないもの
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「それはね、私が転校しても
中学に行ってもね」


「………」


「高校に入っても変わらないんだ」


眉を顰める俺をふふっと
笑った



でもその顔も
だんだん今の空を表しているように
暗くなっていく


「井上君に告白されても」



「…………」


「龍くんが齋藤さんと付き合ってた頃も
誰かとキスしているときも」


「…………」


「やっぱり変わらないんだ」



「…………」


「この気持ちはずっと続くと思うんだ」



遥香は息を一回
吐いて





「龍くんが好きなの………」




「え?………」


「その気持ちは今も思ってるよ」


最後のの言葉は
あまりよく聞こえなかった


でもこう言ったと思うんだ



それから静寂に包まれる
言葉を持たない沈黙


今までだって
何回も告白されたのに
初めて告白されたときのような


何とも言えない気持ちになる


遥香が俺のことを………


顔をあげえた遥香の
大きな目には涙があって
光に照らされてキラキラ光っている



こんな場面なのに

七瀬より奈々未より
遥香の涙がきれいに見えた



「だから、どうしても知りたいの
あの人は、龍くんの何なの?」



遥香の涙に心が締め付けられる

でも奈々未のことを
隠したいと思う気持ちがぶつかる



でも現実はどんどん
逆になるだろう


遥香に奈々未のことを
言えば100%遥香は俺を嫌いになる



自分に生まれた
遥香を想う
淡い淡い気持ちが口を
石みたいに動かなくする


「龍くんわかんないよ」


「…………」


「何か言ってよ」


「…………」


「どうして、何も
何も答えてくれないの?」


遥香は俺の胸を
ドンッと弱弱しく押した



そのまま体育館を飛び出していく



俺はその誰もいなくなった
体育館で


「………いってー」


押された胸を押さえながらつぶやく


遥香の弱弱しい
力で押されても
痛いんだ



痛い


痛い


痛い


痛いんだ




君を想うと



心が痛いんだ








ライト ( 2016/01/30(土) 19:44 )