第9章 キスと変わらないもの
05










「ねぇちゃんと採れた?」


玄関のドアを少しだけ開けて
まるで怪しい人間を見るように
眼を細くしてこっちを見る奈々未



「何が?」


「100点」


「いや……そんなん取れるわけないっしょ?
まだ、テスト帰ってきてないけど
無理だろ」


「何よそれ、私のおまじないの
効果が効かないなんて」


「…………」


よく言うぜ


キスで百点取れたら
バカバカしいぜ




「あのさ、龍太に聞きたいことがあって」


「聞きたいこと?」


「うん………」


なんかいつもより声のトーンが低くて


「彼女と喧嘩した?」


「彼女?」


「うん」


「いや、俺彼女いねーけど」


「ふーん」


俺は首をかしげながら


「なんだよ、どういうことだよ」


「キス………彼女見てた」


見てた……って
お前まさか確信犯かよ



「お前………」


「だって玄関出たところから彼女見てたから
龍太のこと、だからどういう反応するのかなーっと思って」


「怒った?」


「別に」



いつもの奈々未の姿は
そこにはなくてシュンとする姿


「本当に?」


そういうと奈々未はゆっくりと
俺の胸に耳を当てる

「もしかしてさ、好きなんでしょ?」


「はぁ?好きじゃねーよ」


俺は即答した


でも、別に遥香のことをどう思っていても
俺は本心は言わない


「ならよかった」


奈々未はいつもの強気の姿に戻り
俺に近づいて
腰に手をまわす


ぴったりとくっついた体


「今日はどうする?」


こんな時でも心と体は反対で
冷め切っている心とは真逆に
だんだん体が熱くなってくる


誘惑にもとれる奈々未の目と
じわじわと力が強くなるその腕
やさしく触れるその指が

俺を動かなくする

その動きは冷静な判断を
麻痺させる



奈々未はそれ以上はいつも何も言わない
それ以降は全部俺次第


そうだ


だからこの空間は心地が良い
だからいつも俺の心と体は
剥がされるんだ



でも今日は
なんだか歯止めがかかる


「今日はやめとく」



言った後に少し心配になる
いつもは断ったことがなかったから
奈々未が傷つくんじゃないかって


でもそんな心配を奈々未は
おれよりも上手だった



「そう」


そう言って俺から離れて
何事もなかったかのように
椅子に座った



大女優のように
テレビをつけて笑い出す





「なら俺帰るわ」


「うん、気をつけてね」


俺の方を一瞬だけ見て
微笑む、それと同時に俺はドアを閉めた






ライト ( 2016/01/25(月) 22:10 )