第21章 一滴の涙
08
「今はこの時間を楽しむがいいよ、いつか彼女は俺を選ぶことになるから」



あの時山本が薄ら笑って俺に向けたその言葉はこの計画につながっていた、それは今この時ではなくオーストラリアで遥香と過ごすための未来を確かなものにするための自らが計画を練っていたのだ


「音楽強化生徒はね、原則として学校の寮みたいなところに入るんだけど、山本湊はオーストラリアに別宅があって」


「別宅?」


「うん、まぁ別宅って言っても誰も住んでなくて仕事のために父親が去年買ったものらしいんだけどね」


「なるほどな、特別扱いのおぼっちゃまは一般人が住むところは嫌でそこで優雅に1人暮らしかよ」


「彼はね………一緒に住むつもりだよ」


「一緒って?」


「もちろん遥香ちゃんと」


………は?



その衝撃の一言に言葉も出ない俺と、口が開いたままの潤一


「ちょ、ちょっと待てよ、何?あいつ監禁でもすんの?」


「監禁じゃないかな」


「それって犯罪だろ、本人の意思を無視して家に連れ込むなんて」


潤一の迫力に負けたのか大和は勢いを無くしていく


「うん、遥香ちゃんの合意の下で」


「何バカなこと言ってんだよ、島崎が合意ってそれじゃ同棲じゃん」


どうせい?


鉄砲玉を食らったように次々と飛び出す信じがたい言葉の数々、その言葉が1つずつ俺の心を容赦なく貫通していく



「おい、龍太?」


「大丈夫だよ……余裕……」


そんな言葉を行ってみたものも今の俺の姿は余裕なんて言葉が1番似合わない、あんな奴と一緒に住まわすものかと思った途端俺は何か吹っ切れたように考え始める




たぶん


あそこまで自分の思い通りにする山本なら、遥香の首を縦に振らせることももしかしたら可能なのかもしれない、要は、彼女が寮に住むことができなくなってどこにも居場所がなくなれば王子様のように姫を城に連れて行くことができるわけだ、でも遥香が追い出されては問題のある生徒として強化生のポジションが危うくなるだから大切なのは自ら出ないといけない状況を作らせること



「遥香ちゃんが寮を出たいと思うのは簡単だよ、変な男に付きまとわれるとか嫌がらせをさせるとか………でも1番効果的なのはレイプだよね、異国の地で精神的に追い込めば少なくとも山本の方がいいに決まってるし」


「それでも住むかな?遥香が」


「まぁ遥香ちゃんだったら、先生に相談とかしそうだよね」


「確かにそうかも」


律儀な遥香の性格、いくら知り合いだからって迷惑をかけないように遥香はしてしまいそうな気がする



「でももし先生が進めたら?」


そんな考えも折り曲げるように大和は口を開いた


「山本湊が今は他の人に貸していて、他にも住んでるって嘘ついたらどうする?」


「…………」


「ほかの寮とかホームステイ先を探すにしてもどうせ知らない人の所に住むのなら、信用している山本湊の所の方が安全って思わない?」


「そうだな……」


「山本湊はそのためにかなり準備してるよ」


「だから元から断つってことか?」


つまり山本をオーストラリアに行かせてはいけないということ



「そう、でもあとは俺に任せてよ俺が理事長に直接話をつけるから、来週学校に来るみたいだから」



そう言ってパソコンからUSBを抜き取ると大和は鞄にしまう


「あっ、そうだあともう1つ話すことがあるんだ」


「なんだよ」


そう言ってまた違うUSBを出してパソコンに差し込んだ大和は慣れた手つきでファイルを操作して開く、最初そのページは英語ばかりで読む気が失せたがすぐに日本語のページに変わる


「たぶんこれが山本湊の最終目的」


そう言って下にスクロールした先で俺は目を奪われる、大和の声が不安を煽るいいような胸騒ぎ抱えながら先の言葉を追うと俺は怒りよりも山本湊への恐怖心がうまれた






ライト ( 2017/02/22(水) 00:19 )