第21章 一滴の涙
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山本の背中がどんどん離れていく、俺は自分でもあのころに戻ったみたいに驚くほどに今の状況に冷めていた、あのすべてが無気力でこの世界に何の希望も夢も持っていなかった遥香に出会う前のあのころに


自分から山本の手の中に1番大切なものを放り込むことの恐怖、それを感じないように俺はわざと全く別人になっていたのかもしれない、そうでもしないと俺は平常心ではいれないから


まだ傾ききらない夏の日差しはグランドにいる生徒たちの影を長く伸ばしていく、俺は部室まで来てドアを開けた


「しかしよ、ずいぶん派手に拡散されるもんだな」


声のしたほうには椅子に座ってバッシュのひもを取り換えている潤一、部室にはまだ何人かいたが俺が入ると同時に潤一以外体育館に向かっていった


「まぁな」


「まぁなって……お前はいいけどさ島崎の気持ち考えたのか?」


潤一はんっと顎を突き出して、部室の窓の方に目線を動かした、そこには校舎と部室棟の間にあるスペースに見たことのない男子生徒と小さく何度も頭を下げる遥香の姿


「俺が来てからも3人目、たぶん今日だけで5人はいったんじゃね?」


さっき山本が言っていた言葉が蘇る


「遥香って意外とモテるんだな」


「は?お前今さら何言ってんだよ、お前は知らないだろうけど今までお前の足元に何人撃沈した奴がいると思ってんの?」


俺の方を見ないまま大和は大きな声で話した後、急に小声になった


「大和から伝言だって」


その声に空気がピンと張りつめた、俺はその空気に耳を澄ます


「大和の方はうまくいったって」


ホッとする言葉なのに逆に俺の中で緊張が走ったのは、たぶん今まで進んできた道の逆向きの道がすべて閉ざされたからだ、つまりもう俺に残されていることは前に進むだけ


「了解」


すると、よしっとバッシュを置いた潤一は俺の横に歩いて来る


「説明しろよ」


「は?」


「分かってんだよ、お前と大和が何かをしようとしてることぐらい、島崎のことで、でーも俺抜きでやろうとすんなよ」


目の前には少し怒っているように見える潤一、この表情は少し子供っぽくてでも俺よりでかい身長のやつの拗ねた表情に笑いそうになる


「分かってるよ、初めからお前にも協力してもらうつもりだよ」


その言葉を口にしたとたんゆっくりと上昇した潤一の口角、それに合わせてその大きな手を俺の首に回して頭をぐりぐりとする



「痛ぇよ、バカ」


今にも何かしでかしそうな潤一は笑みを浮かべたまま、陽気に部活着に着替える


「おい龍太早くしろよな、おいてくぞ」













■筆者メッセージ
拍手メッセージをくださった方へ
今のところは、まだ知らないまま動きます、山本の正体を知っているのは3人だけです
ライト ( 2017/01/23(月) 00:28 )