01
俺と遥香が別れたって言う噂は、早いもので昼休みにはほとんどの人に知れ渡り、放課後にはほぼ広まっていた
そんな噂はいつもは面倒だと感じるのに、今日に限ってはありがたく思える、そのおかげで俺は任務を遂行できそうだから、そして1番知られたかったあいつの耳にも入ったことを確認したのも放課後だった
今日の話題の中心人物の俺は廊下を歩くだけでいろんなやつからの視線が刺さる、その視線を背に俺は部室に行くために渡り廊下は歩いていく
「ねぇ、いったい何があった?」
その背中越しに響いた声に俺は振り返る、その声は前に音楽室で聞いた声からは想像できないくらいいつもと変わらない穏やかな声
「何がですか?なんて言わせないよ………君も分かってるだろ?今日はその話題で持ちきりなんだから」
「持ちきりって」
ふっと笑った俺に山本は近づいて俺の前に立ちはだかった
「君のせいで遥香はまだ部活に来ていないんだ、もう時間もないって言うのに………別れた直後にすぐに彼氏候補に名乗り出たやつらがまだ列をなしててね」
俺の前に立った山本は俺との距離が近かったようで小さく後ずさり訝しげにこっちを見る
「それで………説明をしてもらいたいんだ」
俺は山本に目をむけながら息をついた、それは呆れているように見えるようにそして面倒くさいように
「あー、なんか冷めちゃったんですよね」
そんな言葉、この執念深い山本には俺の言葉が理解できるわけはないだろう、あれほどまでに遥香を手に入れたいやつの脳内に冷めるなんて言葉はない
「昔から俺ってそうなんですよ、なんか長続きしないって言うか急に冷めちゃうんすよ、こうやって先輩とやりあうみたいなこともなんか面倒で、あっでもこれでも遥香とは長く続いたほうですよ」
嘘を見透かされないように表面的に淡々ともう業務連絡みたいに言葉を口にする、でもそんな言葉とは裏腹に俺の鼓動は言葉を1つ1つ口にするたびに確実に速度を上げていった、そんな俺に山本は感情のない声を上げた
「そう」
それはあっさりと信じたのか、それとも嘘だと気づいたのか、ほんの少しのヒントでも欲しくてもう少し顔色を伺いたかったが逆に見透かされそうな気がしたから俺はそのまま部室の方に向かおうとする
「いったい君は何なんだよ」
突然放った少し大きめな山本の声は放課後の校舎に響いた、俺は反射的に振り向いた、その先に見える裏の顔と表の顔が混ざった表情、高鳴る鼓動が再び戻ってくる
「結局僕は………君の気まぐれに付き合わされてたのか?」
身勝手ともいえるようなその独り言のような言葉が山本の口からこぼれていく
「どのみちこうやって彼女を振るなら………俺がいろいろする必要なんてなかったじゃないか」
そうだお前が今まで遥香を手に入れるためにしていたことはもういろいろなんて可愛い言葉で表せねぇんだよ、お前がしているのは犯罪なんだよ
「だから……彼女フルートなんかまともにしばらくの間吹けないかもしれませんが……ン俺はもう関係ないっすから、あとはそっちで何とかしてください」
無表情を装いながら俺は明後日の方向を向く
「ひどいね君は……」
「…………」
「まぁ君はそっちの方がいいんじゃないかな、僕が知る三上君もそんな感じだったし君らしいよ、氷の王子様って言われていた時に戻ったみたいだ」
強烈な上から目線に胸ぐらをつかみたくなる気持ちを抑えて俺は静かに息をついた、その時見えたのは、堪えきれずに口元が緩んだ山本の本性だった
「まぁあとのことは俺がフォローするよ」