04
「私………龍くんが嘘を言ってるなんて思わない……でも先輩が嘘言ってるとも思えない」
「じゃさどういうこと?俺らが言ってることは逆だろ?」
「うん…………だから分からないんだよ私も……」
この間の電話は結局ずっと平行線が続いた、もともと遥香を困らせる気なんてなかっただから、この話もそこで打ち切った
「分かった」
もちろんそれは言葉だけで本当は分かってなんていない
そして今の時刻は午後9時にもう少しでなろうとしていたところ、俺は首が痛くなるほど上を向いて夜空を見上げていた
「どうしたの?突然来るっていうから驚いちゃった」
遠くの方から小走りで近づいてきた遥香が見えた
「うん………」
そういえば会いに来た理由は考えてなかった、本当のことを言ったら俺は乙女みたいじゃないだろうか、この期に及んでも妙なプライドが邪魔をする
「お前が……遥香がいつも練習頑張ってるから会いに来た」
「え?」
「まぁ簡単に言うとご褒美みたいな?」
そんな上から目線の言葉にも遥香は嬉しそうに笑う
「そうなの?」
「うん、そう」
やった、と言って俺のTシャツの裾をキュッと持つ遥香にやっぱり乙女みたいに喜ぶ自分がいる
「ってまぁただ遥香に会いに来ただけ、少しでも話ができたらなって」
「さっきはご褒美って言ったのに違うんだね」
「え?」
「本当は龍くんが私に会いたくて来てくれたんでしょ?」
彼女から視線を外し明後日の方向を見てしまう俺の目、いつものように恥ずかしい言葉が並ぶ遥香の敷地に俺はずるずると引き込まれていく
「じゃ、龍くん行こっか?」
「え?どこに?」
すると遥香は振り返りながらまさかの言葉を口にする
「私の家だよ」
「ちょっと、ストップ遥香」
いきなり発せられた緊急事態に俺はその手をグイッと引き返した
「わっ」
その勢いで俺の胸に衝突した彼女はこっちをにらむ
「え?何で?」
「何でってせっかくこっちまで来てくれたんだもん、家でお茶でもごちそうするよ」
「何言ってんだよ、こんな時間に」
「気にしなくていいよ、今ママは弟の塾に迎えに行ってるから、私一人しかいなくて」
いやいやいや、それこそダメだろ
「もっとダメだろ、家族居ないのに上がり込むなんて」
「え?でも、龍くんの家に行ったときお母さんいなかったよ」
「いや……まぁそう……だけど」
のほほんと流れていく遥香との空気がやけに懐かしい
「じゃー10分だけ、ね?いいでしょ?」
「え?」
「実はね、龍くんにもらって欲しいものがあって、本当は明日にしようと思ったんだけどせっかくだから今日にする」
「だったら明日で」
「だ、か、らちょっとだけ」
俺の言葉を最後まで聞かずに遥香はさっきよりも強引にぐいぐいと俺の手を引っ張っていく、声は抵抗するけどきちんと前に進んでいく俺の足、気が付くと遥香と一緒にマンションのエレベーターに乗っていた