02
「ねぇ三上君、あんなことをさ…………遥香に言うのはどういうつもりなんだい?」
それは意外にも穏やかな口調だった、もっと挑発的な言い方をしてくると思っていたのに、さっきまで張りつめていた空気は少し霧が晴れていく気がする
「まぁ確かに僕は君に口止めした覚えはないけど、遥香がメンタル弱いのも君なら知っているだろ?そんなこと本人に言ったらどうなるかなんて頭がいい君ならわかるはずだ」
俺は一瞬目をそらすと山本は、いつもの大和みたいにくすくす笑う
「僕はね前にも君に言ったが、ただ単純に彼女の夢を叶えてあげたいんだよ、だから君も自分の気持ちよりも先に彼女のことを考えてあげてよ、無理かな?」
山本の話はもっともすぎる、遥香のことを思えば思うほどに言い返す言葉はなくなっていく、自分がやけに子供で身勝手なやつだと思えてくる、こんな簡単なことすぐに想像がつくのに俺はなんであの時あんなにも軽々しく口にしてしまったんだろう、ポケットに突っ込んでいた両手はいつの間にか汗でぐっと力を込めた手のひらが滑り出す
やはり俺は無防備でこの戦場に出向いてしまったようだ、その無防備にあっけらかんとしている心に山本は容赦なく傷をつけていく、キリキリと痛む胸の奥、それを抱えながら俺は山本に目を向ける
「分かりました…………けど」
「けど?」
「もう遥香のことは諦めてもらえませんか?」
戦わないように、傷つけられっぱなしの俺は小さく抵抗する、それが1番いい遥香がまだマネージャーをやっているころの俺たちに戻れればいい、静かにこいつが身を引いてくれたらなんて願いが胸に広がっていく
「想定外だな………まったく」
山本は急に漏れたため息とともに声を落とす、想定外という返答にならない言葉に俺は眉を顰める
「まさかね、君が………三上君が本当に遥香の相手をするなんて思わなかったよ」
「それってどういう意味ですか?」
「君はいつもどこか冷めてた、周りのことにも興味はなくてそして自分にも興味がなさそうだったし、それに女子にも興味がなさそうだし、だから遥香も当然振ると思っていたのに……」
ゆっくりと流れていく雲に視線をむけながら山本は話し始めていく
遥香が中学を卒業して二人は付き合いだしたらしい、そして遥香がこの高校に入学して3日たった日、急に遥香は山本に別れを告げたという、その理由は俺と5年ぶりに入学式で出会ってしまったから
「遥香の初恋の王子様が目の前に現れたら忘れようとしても、忘れられないよねどんな女子だって動揺するよ、だから僕は遥香の気のすむまで好きにさせたんだ、初恋の王子さまは昔と変わっていて、振られた彼女はまた僕の所に帰ってくるってね自信があったんだ」
俺が遥香を思い出したのは、確かもう2月になっていた、それまでの彼女の存在なんてただの部活のマネージャー、特に意識もしたことが無かった遥香がそんな思いを抱いているなんて俺は想像もつかなかったし
「本当に誤算だったんだよ、君は恋愛なんてするタイプじゃないと思っていたから、むしろ面倒だと思っていると思っていたから」
俺は力なくふっと笑う、確かに自分でもたぶんあのころの自分は無気力だった、するとその何秒後に続いた山本の言葉に胸を突かれる
「大学生との恋愛以外はね……」