第19章 いらだちの罠
06
「ねぇ龍太数学の宿題やってたら見せて」


次の日、朝駅を降りると大和に出会う、昨日七瀬が王子さまって言っていたのを思い出す朝日にあたっていつもより茶色く感じる髪の毛


「いいけど、あのさお前って病院行ってんの?」


「ん?………ああ、ちょっとねお見舞いに」


「そうなんだ………」


前から思っていた大和はずっと何かを隠している気がする、でもみんな本当の自分なんて他人にさらしている訳なんてない、2年生になって話始めてからずっと俺と潤一にはどんなに近づいても入ることのできないエリアがある気がする


「それってさ誰なの?」


大和はふっと笑う、もうこの話題をした時から俺の口から出ると思っているみたいに



「俺の母親だよ、体が悪いんだずっと」


「………大丈夫なのか?」


「うん、心配しなくても大丈夫」


そのまま俺と大和は学校に行って教室に入ると、いつも通りの大和がいて女子たちと楽しそうに会話している



「なんであいつはあんなに女子たちに人気なのかね」


「何潤一うらやましいの?」


「そりゃそうだろ、朝学校に来たら女子に囲まれるんだぜ、お前はうらやましくねぇの?」


「そりゃまぁ」


あんな状況を見ると羨ましく思わない男子などいないだろう


「でも龍太には無理だわ」


廊下の方を見る潤一は意味があるように俺の肩をたたく、その潤一の視線をたどるように廊下を見る前にその答えは俺の耳に届く


「龍くん……」


朝から耳に響く心地よい聞き慣れた声、見ると廊下の窓際に体を寄せるように立っている遥香が俺を見てにっこりと笑う、やっぱり俺にはそんな女子に囲まれるなんて無理だ、目の前に訪れた幸せがさっきまでの妄想を砕いていた



「おはよ、龍くん」


階段を登ってきたのか、少し息が切れている遥香は胸に手を当てて近づいた俺の目を見る、そのストレートにぶつかる瞳を見つめ返すとまたにっこりと笑う、さっきまでの妄想の中ではいくつもの瞳に見つめられるけどでもこの薄茶色の瞳だけが俺に向けられていれば俺はそれだけで十分だ


「ねぇ今日のお昼時間あるかな?」


「昼休み?………何もないよどした?」


それには何も答えない遥香はふふっと笑う


「じゃまた後でね」


指でときたくなるその柔らかそうな髪の毛をふわりとさせながら遥香は俺の前を横切っていく、そんなこといつもはしないのに、まるで俺は叶わない恋を味わっているみたいになぜかずっと遥香の後姿が見えなくなるまで見つめていた



もしかしたら俺はこのあと起こることを知っていたかのように見つめていたのかもしれない




ライト ( 2016/11/10(木) 22:06 )