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「ねぇ三上君………どうして隠すのかな?」
山本はさっきとまた同じように笑いながら俺に向けて口を開く
「隠してるって俺は………何も隠してないっすよ」
俺も作り笑いを山本に向ける、今山本がどんな答えを求めているのか、どんな答えを期待しているのか分からなかった
遥香に過去のことを言ってから、俺は奈々未のことを遥香に話した、でもおそれで音が悪くなることはあってもよくなることなんか考えられない、だから遥香自身に何か変化があったのか、俺意外の誰かによって、それに向井地は相変わらず俺の所によく来る潤一やほかの部活のやつにからかわれるくらいに
「まぁ、音が良くなったんならそれでよしとしませんか?俺たちにもいろいろあるんすよ」
ただこの空気が苦痛で早く立ち去りたかった
「そうか、いろいろね」
急に俺の言葉を理解したように不気味に笑う山本に少し恐怖すら覚える、そしてそのまま自信満々に俺の顔を見上げる
「なら明日にでも、遥香に聞くよ」
「それがいいと思いますよ」
「いいんだ聞いても?」
「はい、俺じゃ分からないんで」
「でも、彼女あんまりからかわないでくださいね」
「からかう?」
「はい、彼女はその手な話はダメなんで、まぁたぶん気づかないことも多いと思いますけど」
明日こいつが遥香に近づくのは嫌だったけど、すこしのフォローをして早く立ち去りたかった、でもすぐに山本の言葉に心が揺らされた
「ふっ、君が思ってるより遥香は純情じゃないよ」
その安っぽい笑顔の裏にどんな言葉を隠し持っていて、どんな言葉が待ち構えてるのかなんて分からないだけど、この言葉を聞いて一気に不愉快になったのは確かだ
「何なんすか?」
「言葉の通り、今僕が言ったことのまま」
まったく分からねぇ、遥香は純情でそういう話をした時も気づかないのに耳も顔も真っ赤にさせるのにあれが純情じゃないって言ったら誰がそうなるんだよ
「僕は分かるよ、三上君の気持ち、はじめはそうだったから、遥香はね男から可愛いと思われることを知ってるんだよ、それもごく自然にできること、まぁ実際にかわいいから騙されても許せるんだけどね」
俺が思っている斜め上をいく話に鼻で笑う
「たぶんそろそろ彼女の本当の姿が見れるんじゃないかな?」
「…………」
知らない間にポケットに突っ込まれていた右手はプルプルと震えていた、心臓は今にも飛び出そうなくらい高鳴って俺を突き動かそうとする
「まぁもしかしたら君には本当の自分を見せないかもね」
落ち着け
落ち着け
そんな言葉が俺の頭の中を駆け巡る
「そうっすか?じゃ」
固く結ばれたこぶしがゆっくりと力が逃げていく、そしてやっと終わったと思ったのに山本の言葉ですべての引き金がひかれた
「遥香はね純情じゃないよ、もっとけっこう強引なのが好きなんだよ」
その言葉、俺に対する挑発としか取れない言葉に俺の記憶がプツリと切れた
いままで抑えていた力も、気持ちも、さっきまでの我慢もすべてがどこかへ行ってしまった
そして次にやってきたのは、廊下を強く踏み込んだ左足に伝わる振動と、音、そして右手に伝わる強い衝撃、目の前の視界に入ってきた山本が倒れている姿だった
そして俺のことを後ろから強い力で押さえこんでる大きな手が、前のめりになる体勢にしっかりとくっつく腕のある光景だった