03
「ねぇ先輩、遥香先輩とはまだしてないって本当ですか?」
「………」
「そういう噂があるんです」
「向井地には関係ないよ」
俺のことを押し倒したまま向井地は少し俺に顔を近づけながらニコッと笑う
「それは、遥香先輩のことを大切にしてるからですか?、それとも遥香先輩が決心つかないのかな?」
「関係ないって聞こえなかった?」
「でもたぶん遥香先輩が原因かな、そういうところうぶっぽそうだから」
こいつには話が通じないみたいだ、だから早く帰ってほしい
天井に視界をむけても入ってくる向井地の顔ときれいな髪の毛、色っぽいその唇、シャツとリボンの間から見える首元、さらにそこから見える下着の肩紐、こいつは俺の理性を壊そうとしているんだって分かる
「先輩ってやっぱり大人ですね、普通この場面で慌てないなんてありえないですよ、女子にベットの上で押し倒されているのに」
「…………」
「私が遥香先輩ならすぐに身も心も自分のものにしてほしいって思うのに」
「お前もう出てけよ」
ニコッと笑う向井地はようやく俺のつかんでいた右手の力を緩ます
「分かりました」
「…………」
「ねぇ先輩私としませんか?もちろん遥香先輩には内緒にしますから、もちろん声もなるべく我慢しますよ」
ほんの少しの間ほんの少し動揺したその数秒の間に、彼女の手は俺のシャツのボタンにかかっていてそのまま一つ外した
でもなぜだろう
さっきまで理性が持つか心配していたのに、その俺の肌に触れた手の後、俺の鼓動も感情も熱もすべてが無くなった、そして氷のように冷たくなった
そうだこれはあの奈々未の時に感じた心にあいた日々を送っていたころと同じ感情だ、そこには黒と白のモノクロの世界にしか色づかない、そして俺はその手を払いのけてベットから立ち上がる、遥香といたこの頃には感じなかったから忘れていたんだ
「バカかよ」
俺は立ち上がって向井地と距離をとって、
そして俺は空いたままのシャツの第3ボタンを留めて、緩んでいたベルトを締めた
パシャ
俺の後ろで音が鳴ると、向井地の手にはスマホがあり俺の方を向いていた
「ねぇこの写真遥香先輩に送ってもいいですか?先輩が冷たいから」
「…………」
そこには俺がボタンを留めている写真
「こんな写真送ったら、遥香先輩も慌てるでしょうね、だって私が先輩の着替えてるところにいるみたいでしょ…?」
「なら送ればいいじゃん……遥香はそんなの信じないよ」
向井地と視線がぶつかる、するとニコッと笑ったその時の向井地の笑顔は不気味だった、少し恐怖を感じるような笑顔だ
「分かりました、消しましたよ今、そんな怒った顔で見ないでくださいよ」
「送ってく」
「え?」
俺はそのままの格好で部屋から出ようとする、慌てて後ろからあきらめたように向井地は歩いてくる、ようやく抜け出したこの異空間
そしてふとよみがえった、奈々未との関係のこと、あのころ俺に見えていた世界は黒と白、いやむしろ色のない世界を生きていた気がする
だから俺はこの先遥香と生きていきたい世界は俺に何色の世界を見せてくれるのだろうか