05
「ほら、機嫌直せって、見てないって」
「…………見とれてたよ」
レジで会計をすませた後、奥の椅子とテーブルに座ると明らかに不機嫌そうに俺の顔を見ないままスマホをいじる遥香
「ごめんって」
「…………」
「本当にごめん」
「そんなの、やっぱりいい気しないでしょほかの女のひとのことずっと見てて」
「ごめん」
「本当だよ、龍くんはバカなんだから」
怒っているようでいつもと変わらない遥香がそこにいた、いつもならバカって言葉にむきになるのに今日は何とも思わない
「ごめんな、さっ食べよ」
「うん!」
目の前のお皿に置かれたパンを遥香は両手で小動物のように食べる、1口食べるとまたさらに笑顔になる、その顔を見ると俺も笑顔になるこの最高の循環はおれをしあわせな気分にさせる
「ねぇ、龍くんのパン食べたい………」
「何?………」
「ちょっとちょうだい」
俺は少し笑って持っていたパンを遥香の方に近づけるとパクッと遥香は俺の持っていたパンをかじる
「おいしー」
「本当に、おいしそうに食べるよね」
「だって、パンもおいしいけど、龍くんに食べさせてもらったから」
そんなかわいいことを照れながら急に言う遥香は、俺のほほを緩ませる
「…………」
「ねぇ、あーん」
「へ?」
遥香は今度は俺に持っていたパンを俺に近づける、そのパンにはさっき遥香がかじった跡がついていて、俺は気づかないふりをするけど遥香はさらに近づける
「いや、恥ずいから、ここ人結構いるしさ」
「ふーん恥ずかしがるんだ、あーあさっき誰か彼女目の前にしてほかの女のひと見てた人いたなー」
「おい、ずるい………はぁ分かったよ」
俺は遥香の持っているパンを1口かじる、するとほかの客がいる中で1番俺が恥ずかしいのに俺以上に恥ずかしがっている遥香
「なんで俺以上に恥ずかしがるかな」
「だって………なんかかわいかったから」
「はぁ、もう帰ろっかそろそろ帰らないと遥香が家に帰れるか心配になるし」
そのまま駅まで歩いていく、駅のそばにあるからすぐについて離れるのが辛くなってくる
「あれ、遥香の方電車ちょうど来たじゃん」
最近山本湊が現れてから俺はより遥香のことを想うようになった気がする、だから遥香も俺と同じ気持ちでいてくれたらいいな、そんなことを想いながら遥香に手を振って遥香が俺の前からいなくなる
電車の発車音、その音が鳴るころ俺はベンチに座り自分の電車の来る方を眺めていた