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今すぐに遥香の手をひいて山本湊から連れ去ってしまいたい、別にあの二人が特に何もないとしてもただの、部活が終わって一緒に帰ってるだけでも
でも部活ならそのまま帰ることもあるかもしれない、俺と向井地のように、俺は遥香の自由を奪いたくない、俺のせいで遥香が何かを我慢するなんていやなんだ
「あらら、見つかっちゃった」
小さな声で向井地はつぶやく
「何、隠してんだよお前にとっては好都合なんじゃねーの?」
少しからかい気味に言う、確かに向井地の言葉は俺と遥香の中を離そうとするためには好都合だ、だから俺は向井地の方を見ると悲しそうな声で小さくつぶやいた
「だって……先輩の悲しい顔みたくないもん」
「別に俺は……」
「だって、元カレといたらどんな人だって嫌な気持ちになるでしょ?」
え?…………
元カレ?………
誰の?………
向井地の?…………
でも向井地の元カレだったとしたらなんで俺が悲しむの?
俺は静かに駅の方を振り返った
二人のいる方を静かに
まさか………遥香はあいつと付き合ってたなんて
「先輩?」
「…………ん?」
「あれ?もしかして先輩二人が付き合ってたこと知らなかったなんてことないですよね?」
心臓が驚くほど飛び跳ねる
「いや、知ってたよ」
だからこんな嘘をつくことが精いっぱいだ、震えてるんじゃないかと思う声で
「やっぱり先輩は大人ですね、私だったらたぶん無理だな」
呼吸するのが辛くなる、マラソンをしているような、突然俺の周りだけ空気が薄くなったように呼吸が荒くなる
「まぁな」
俺はどうしていいかもわからなくてただただ空を見上げた、空は月光の光を隠すように梅雨空の雲が覆っていた