第14章 色をなくした花
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「おせーよ、遥香」


ん?
どこからか聞こえてくるその声は龍くんの声だけど姿は見えない、だから私は公園の街灯を頼りにして姿を探す


「ここだよ」


「どこ?」


からかうような龍くんの声がだんだん大きくなる


「上」


上ってそんな、私は上を見上げると同時に驚いた声が口からもれた


「うわわわー、なんでそんなところにいるの?」


私の頭上にはスニーカーの底が見えて、ベンチの近くにある大きな木の太い枝に龍くんは腰かけていた


「遥香も来いよ」


「怖いよ、降りてよ」


「やだ」


「もぉ、子供みたいなこと言わないでよ」


私は心配だったから、その枝がいつ落ちるか分からなかったし、結構な高さだし


「降りたら、なんかいいことあるの?」


「え?いいこと?」


「そう、いいこと」


「ない」


「なr降りねぇ」


ハイ?


「なんで、龍くんがここに呼んだのに、それに早く帰るんじゃなかったの?犬の散歩は?」


あっやばい………、そこまでを口にして口に手を当てる、もしかして盗み聞きしていたことがばれたかも………


「あー、それならさっき母さんが今日はしてくれたって、でも今日はそんなことよりこっちの方が心配だからさ」


龍くんは私の方を指さす、私は後ろを振り返るも落ちているのは位置と砂と葉っぱだけ


「………?」


「明日から、吹奏楽に行くから不安なんじゃないかと思ってよ」


「え?」


龍くんはポカンとしている顔を見ながら笑うと、木から体をずるっと前に出して起用にポンッと地面に着地した


「もう!」


私は龍くんの体を押した


「意外と力あるよな、まぁいいやおいで遥香」


その言葉と同時に出された両手、言葉の意味は理解できるのに動かない私の足、さっきまで少年のように木登りをしていた小学生の頃の龍くんから一気にそこには大人の龍くんに一気に脈が早くなる


「こっちおいで」


「うん」


それでももたもたする私を見てグイッと自分の方に引っ張った、すると龍くんの両足にすっぽりと足が入ってありえない立ち位置になる、だけど龍くんは何も言わないまま笑顔で話し出す


「さっき、潤一に怒られた、向井地に優しくしすぎだって、ごめんな遥香」

少し悲しげに笑った龍くんの顔に胸が痛む



「違うよ、龍くんは悪くないんだよ」


「…………」


「龍くんは、みんなにやさしいから」


そうだ、龍くんはみんなに優しかったから、私は好きになったんだと思う


「それでも、その優しさで遥香が何かされたり、苦しむんだったら意味ねぇよ、だから明日ちゃんと向井地には言うから」


「うん」


そんな言葉が嬉しくて涙が出そうになるけど、そんなことよりも気になるのが今のこの密着具合、考えれば考えるほど体が熱くなって体を逃げるようにもぞもぞと動かす


「ん?どした?」


「ん、いや…………」


なんていえばいいんだろう、離してっていったら龍くんが傷ついちゃうかもしれないし、うれしいなんて言ったら変態だと思われるかも


「もしかして、これ恥ずかしい?」


「そう、そうだよ恥ずかしい」


龍くんはしばらく私の顔を見て真顔で言う


「俺は恥ずかしくないからいいや」


そういってさらに力をいれるから、私との距離がまた一気に近づく


「やっ、あん」


その時に突如出た無防備なその声、急に出た声と、変な声の両方で一気に恥ずかしくなる



「そんな急にエロい声出すのは反則だぞ」


「だって、いじわるするから」


「あれ、俺のせいなの?」


そういってまたニヤリと笑う


「ほら、機嫌治せって」


「やだ」


「遥香ぁ」


「機嫌直したらいいことあるの?」


さっきの龍くんの言葉を使って龍くんに仕返しをする


「もちろん」


「もちろんって」


すぐに近づいてくる真黒な瞳次第に近づいてくるその唇は私のおでこにあてられた


ドクン……


肌に伝わるその温かい温度を感じる暇もなく龍くんの右手の人差し指が唇をなぞる


「なんか、もちみたいだな唇」


「もちって………ねぇ龍くん」


「ん?」


「キスして………」


瞳と瞳がぶつかると私の鼓動はさらに早まっていく


「今日、なんか違うな、もしかして俺なんかスイッチ入れちゃった?」


スイッチ?
龍くんらしい言葉のチョイスだ


「うん、たぶん」


私はその言葉に乗っかった、たぶんこの気持ちは嘘なんかじゃなくてこの気持ちにさせたのも龍くんだから


「なら、責任とらなきゃな」


そういって私の左ほほを大きな右手を添えてゆっくりと距離を縮めた、また私の唇には暖かさがやってくるそして龍くんは切なく手を離した


自分が自分に思えなくなる、今離れた暖かさをすぐに求めてしまうだから私は深い深い海底におぼれていくかのように龍くんにキスをする、時間にして7秒くらいふいに離された唇、龍くんは両手で私の顔を押える


「スイッチオフ」


「…………」


きょとんとしてしまった私に言葉をつづける


「これ以上は俺も男だから自信がない」


「………」


自信ないって?
どういうこと?


「自信ないって?」


「おいおい、分かんねぇの?」


「うん……」


龍くんはまたため息をつきながら斜め上を見る、そんな表情が大人っぽく見えた


「はぁー」


「もしかして龍くんのプライドを傷つけちゃった?」


「プライド?」


「だって、さっき私がキスしたから………」


「違う、また今度教えてやるよ遥香の頭だと答えでねぇから、そうだもうこんな時間だ帰るぞ」


「え?」


私は腕時計の時間を見る、時間は立つのが早くてもう9時を過ぎていた


「ああそうだ、明日から部活終わったら一緒に帰るぞ」


「一緒に?」


「いや?いやだったら」


「いやいや、一緒に帰りましょう」


「なんでそんなに食い気味?」


だって、今まで一人で帰ってたから一緒にって言葉がなんだか嬉しくて



「おっ、遥香の方電車来てるぞ今なら間に合うぞ」


「いいよ、次のに乗るから」


「今なら、間に合うから走れ」


そういって龍くんは私の背中を押した、だから私は駆け足で階段を駆け上がっていく
私はホームに響くアナウンスの音を背に電車に乗る、息を整えながらホームを見ると反対のホームに立っている龍くん、周りを気にしながら手を振るそんな姿がかわいくてまたすぐに会いたくなる


ふとポケットに入っていたスマホが揺れると、そこには龍くんからのメールだった
開くとそこには






明日から吹奏楽頑張れよ
あと、気を付けて






そんななんでもないメールに特別を感じる、私は龍くんから離れていく電車の中で龍くんを思い出しながら笑った




■筆者メッセージ
拍手メッセージをくださりありがとうございます
これからも頑張ります
ライト ( 2016/04/05(火) 22:48 )