09
「どうかしましたか?」
私と美音ちゃんの間には何もなくなった
まだ、収まり切っていない心臓の音、まだそのバケツを警戒してるのかな
「ううん」
彼女は私を見てふぅーと息を吐いて、持っていたバケツをその場においてしゃがみ込んだ、それと同時に少し開放感が来るさっきまでの緊張が少し和らいだ
「そうだ、今日はお客さん来なくなったらしいです」
「そうなんだ……」
たぶん、急に美音ちゃんは井上君に言われたから動揺しただけだろう、だからあんなふうに見えてしまったのだろう
「ねぇ美音ちゃん」
「はい、なんですか?」
「さっきの井上君の話だけど……」
「さっきのって三上先輩のことですか?」
「そう、あの……」
なんて言えばいいんだろう
言葉が見当たらない、今のこの場にとって最適な言葉はなんだろう
「遥香先輩ってどこまで、お人好しなんですか?」
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「お人好し………」
ふふっと笑って彼女は続けた
「最初から知ってましたよ、三上先輩の彼女が遥香先輩だって学校にいたら耳に入って来ますよ噂で」
「…………」
「なのに、黙っててくれるって私のことバカにしてましたよね?」
「そんなつもりは………」
美音ちゃんの笑顔は無色なんかじゃなくて、闇みたいな真黒に染められた花のようだ、それはもう笑顔なんかじゃなかった
「先輩には彼女が誰か言うつもりですけど、私あきらめる気ないんで、また新しいゲームでも考えますね、でも遥香先輩でよかったです」
「え?」
「簡単そうだと思って、龍太先輩を奪うのが」
彼女はまた闇のような笑顔でニコッと笑った