第14章 色をなくした花
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部室に来てみると明らかにご機嫌な美音ちゃんの顔と話し


「聞いてください、今日朝コンビニでパンを買ったんです、そしたら同じコンビニで朝三上先輩も同じパンを買ってたんです運命ですかね?」


やっぱり龍くんの話……


「運命ね」


こんなに話しているのに仕事はちゃんとやってるから文句も言えない、あの日龍くんに電話してみた、そしたら告白されたことは正しくて心配させると思って言わなかったってあっけらかんな龍くん


「美音ちゃん、この後太田先生にお客さん来るらしくてお茶出しお願いできる?」


「はぁい、なら行ってきますね」





「おっと、島崎よかったな後輩ができて」


ドアの方から急に声がして振り向くと井上君が立っていた


「うん」


「島崎ってずいぶんのんきだよな」


「なんで?」


「だって、向井地いつも龍太の所に来て先輩の彼女は〇〇さんですか?って聞いてるよ」


「うん、知ってるよ」


「知ってるって、なんで2人そろってそんなことしてんの?」


井上君は頭をかきながら私に問いかける


「ごめん」


「なんか、そんな2人見てたらイライラすんだよ」


「ごめん」


「まぁ、悪いのは龍太だけどな、これ持っていくな」


そういってスコアブックを手に取る


「あれ、井上先輩こんにちは」


ドアが開いて聞こえてくる美音ちゃんの甘い声


「どうも」


明らかに、さっきよりその声を聞いてから不機嫌になった井上君の声


「先輩って、背高いですよね、何センチですか?」


「186」


「わぁ!高いですね、身長が高い男の人っていいですよね、彼女がヒールはいても釣り合いますしね」


「そりゃ、どうも」


美音ちゃんは井上君の横で背伸びをする


「まぁ、彼女いないけどな」


「そうなんですか?かっこいいのに」


「なぁ、島崎もそういうヒールとか履くの?」


井上君の視線が美音ちゃんから私に移る


「え?」


「龍太、175くらいだからまだいけるか」


まさかこの場面できくとは思わなかった龍くんの名前にドキッとしてしまう


気づかれないように美音ちゃんに視線を移すとそこにはさっきの笑顔はなかった



「う、うん」


「でも、龍太デートとか苦手そうだしあんまり行けてないだろ?今度の休みにでも誘ってみろよ」


じわじわと井上君の言葉は美音ちゃんを苦しめていく、それと私の不安を大きくさせていく


私の返事の前にさっとドアの方に向かった美音ちゃんは何も言わないまま出ていった


「まって」


「おい、島崎」


さっきより低い声で私の名前を呼ぶ井上君の声で私は止まる


「可哀想なんて思うな、期待させるだけ無駄だ」


「うん」


「なら、俺行くからっと」


ドアを出ようとした井上君の足がとまった、そこにはバケツ一杯に張った水を持った美音ちゃんが立っていた


私が覗き込むと同時にその大きな瞳でゆっくりと笑いかけた


なんでだろう?



この続々ゾクゾクとする感覚、そこにはいつもと変わらない花のような笑顔があるのになぜか凍るような冷たさを感じる、それは色をなくした花のような



「どいてくれる?」


その言葉に美音ちゃんは右手で持っていたバケツのそこに左手を添えた、そしてにやっと笑った気がした


あ…………
怖い………


一瞬にして冷たさを感じる
私はそのあとに起こることを予想して体がぎゅっとなった、そして井上君の体が私の前にずらし込んできた



「すみません、私邪魔でしたね」


そこから聞こえてきた美音ちゃんの甘い声が聞こえてきた
何も起こっていない、もしかして私の勘違いかもしれない彼女のしぐさがそう見えてしまっただけかもしれない



「先輩、練習始まるみたいですよ」


「そりゃどうも」


井上君は心配そうな顔を振り向きながら体育館に足をのばした










ライト ( 2016/03/31(木) 22:10 )