第14章 色をなくした花
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部室はシンとしていた、もう四月なのに日陰な部室の中はひんやりとしている

体育館から聞こえてくる、ダッシュの時の掛け声、いつもより1年生がいるからか大きく聞こえる、私は新しく来るマネージャーのことを思い出してマニュアルの紙を探す


えっとーマニュアルどこだっけ?
この前部室の改装で場所移動したんだっけ?
えっとー確かこの、棚の上に置いてあった気がする

やっぱりここだ、手にはファイルのプラスチックの感触が伝わるとき、私の背後から突然口をふさがれた


「んっ………」


え?何?怖い

必死に体をよじってその手をほどこうとするけど、後ろからぴったりと密着され、話足の抵抗力はほぼ0になった、そしてその手は両腕の自由を奪いそのまま私の体は奥へとずるずると引きずられていく、さっきまで入り口にいた私の視界はもう部室の奥へ到達し、背後から感じる恐怖と止まらない震えで声が出なかった



龍くん!
そんな心の声は口から出なかった



「お前ってさ、ほんっとに分からないやつだよな」


「え?」


その声と同時にほどかれた私の腕、まったくいつも通りに動いてくれない緊張しっぱなしの私はゆっくりと振り返るとそこには下はバスケの練習着で、上は学校の制服のシャツを着ている龍くんがいた


龍くんはそのままつけていたネクタイをゆっくりとほどきながら私のことをじっと見つめる


「なぁ、1人で部室いるときはドア開けたままにしろって言ってんじゃん、部室を新しくリフォームしてから、ロッカーとか棚が増えてから死角が増えたからって」


「…………」


「それに、誰かにこんな風にされたらどうすんの?、1年だって増えたんだし」


「…………」


「え?遥香?」


私はその怒っている口調の龍くんの声に安心して、涙が流れてくる、こんなことされて本当はもっと怒りたいのに、なぜか安心してしまう


「イジワル」


「ごめん……手荒な真似して、でも俺が毎回助けるって訳にもいかないから許せ」


龍くんの大きな手が私の頭の上を2回触るその動きに私はまた安心してしまう


さっきの口をふさがれた手と今、私の頭を撫でた手は同じなのに龍くんの手だとわかると安心して怖さは0になる、そしてさっきのことが頭に流れてくるとほほが赤くなるのが分かる



「もう!怖かったんだから」


「悪かったって」


龍くんは私の右手をつかむと私の背中をそのまますぐ後ろにあるロッカーに押し当てたそれほどの衝撃でもないのに、静まり返った部室にはその音が響いた、うつむいた私の顎をくいっと持ち上げると私の視界は龍くんしか見えなくなる


くっきりとした目の奥にきれいな黒色の瞳、私はその瞳に見つめられると何も考えられなくなる、やがて龍くんの顔が傾くと私は目を閉じた



…………ん?
いつもより長く感じる唇に伝わらない感触に私は恐る恐る目を開けた
そこにはわずか10センチくらいの距離で私の顔をにやにやしながら見る龍くんがいた


「なんで、そんな距離でとまるかな」


龍くんはふっと笑いながら


「一時停止した、あまりにもキスを求めてる顔がかわいくて、もう1回やってよ今度は写真撮るから」


「やだ」


「なんでだよ!、意外とケチなのか?」


「龍くんの方がケチだよ」


「なんで?」


そんなこと言えるわけない、キスしてくれないからって、だから私はわざと口をんの形にするすると私の考えが分かっていたかのようにふっとまた笑うと私にゆっくりとキスをした


「さっきさごめんな、俺最低だな」


「そんなことないよ……」


たまに不安になる、去年の今頃はこんなことになるなんて思わなかったから、去年までは龍くんに私の存在はただのマネージャーだった、ただの学校の人だった関係がこんなにも近くに龍くんを感じれる、龍くんが大好きって言ってくれるそれが朝目を開けると嘘になってるんじゃないかって



でもその不安をなくしてくれるのが龍くんのキスだから



「おっと、やべぇー遅刻だ」


「ホントだ、私もコピー行かなきゃ」


「そうだ、来週からかなんかマネージャー入るんだってな」


「うん」


「よかったじゃん、これで仕事が少し減るだろ?
じゃー頑張れよ」


そういって私に笑いかけてくれる笑顔を見るとバスケ部に残りたいって思う何も話せなくても近くで顔を見れるなら



「ねぇ、今日さ相談があるんだけど」


「ん?なら、部活の後一緒に帰ろっか、今日は自主練早めに終わるからさ」


「ありがとう」




その笑顔は私の迷いをさらに深く深く迷宮に陥れていく













ライト ( 2016/03/24(木) 19:57 )