第12章 ほんとのとこ
03
あー眠い
俺はあくびをこらえて涙をためながら前のやつの後頭部を眺めていた
しんと静まり返った体育館の中で校長の声だけが響く、始業式の話はなんか苦痛に感じる、でも授業と違って聞いてなくても問題はない、どうせ誰も聞いてない話だ、周りをざっとみても寝てるやつ4割、寝そうなやつ3割


でもさっきから俺の周りを太田がぐるぐるとまわっていて、もし寝てでもしたら部活でこっぴどく怒られる


でも周りをうろちょろされたら鬱陶しくて
大田が横を歩いたときにこそっと声をかける


「なぁ、太田じゃなかった、先生先生!」


「なんだ、三上しっかりと聞け」


「俺はきいてるよ、ほらほら、あそこ、潤一寝てるから」


その言葉で一気に潤一の所まで早足で歩いていき
頭をチョップした



びっくりしている潤一の顔を見て俺は笑いそうになるのをこらえる

ポケットでスマホが鳴る
その電話の名前を見てびっくりする


嘘だろ?


俺は近くにいた先生に声をかけて一気にトイレに逃げ込むふりをして
体育館を出ていった


だって
奈々未だったから


俺は息を整えて画面を強く押した


「もしもし、奈々未?」


「あ、龍太久しぶり」


忘れかけていた奈々未の声なんだか懐かしくてほっとする


「奈々未、あのさ……」


毎日連絡を待っていたのに、言いたいことはたくさんあるのに言葉にならない



「私さ、龍太に聞きたいことがあってさ」


「俺もだ」


「じゃー私から、ねぇ今もしかして春休みじゃなかった」


春休み?
聞きたいことってそんなことかよ


「そうだよ、今始業式だよ」


「あっ、なら切るね」


「いや、切らなくていい」


だって、今切られたら次電話がかかってくることが無い気がしてじゃ、また後でなんて言葉が口から出なかった


「あのさ、奈々未の待ち受けって俺?」


「待ち受け?」


こんなド直球の質問をして恥ずかしくなる


「龍太は見たの?」


「いや、見てない」


「それって、お隣の子から聞いたでしょ?」


「うん……」


奈々未はそれを聞くと小さく笑って少し間を開けて口を開いた


「龍太、残念だけど違う人だよ」


「そう……だよな」


違う


まぁ俺も思っていた、あのお隣さんからあんなふうに言われたから
そう思っていたんだ


「その人、龍太に似てるのよ」


目の前で確かめられないその真実は奈々未の言葉が真実になる



俺に似た誰か


それが奈々未の真実なんだ



例えそれが嘘であっても本当であっても



その時ふわっと風に舞った桜の花びらが俺の肩に乗った、その花びらを取ろうとしたときに桜の花びらが俺の手につかまることなく宙に舞った、それと同時に俺は口を開いた


ライト ( 2016/03/09(水) 15:43 )