第12章 ほんとのとこ
01
あれから3日後の土曜日の昼俺はなじみのあるアパートの下まで来ていたもう来ないと思っていたのにすぐに来てしまった


メールしても、電話をしても出ることはなかった奈々未


いったいどうしてるんだろう今さらどんな顔で会えばいいのか分からない


でも俺は一言いいたい


ありがとうって


だって、遥香と付き合えるようになったのは奈々未のおかげでもあるから



インターフォンを鳴らすかすかに音が響く



ガチャ




ドアが開く音がした気がする目の前のドアは開かず横の部屋のドアが開いて



奈々未と同じような歳の女性がこっちを怪しそうに見るその目を見る限りめちゃくちゃ怪しまれているのが分かる



「そこで何してるんですか?」


「あっ、いや俺橋本さんの知り合いなんですけど」


「…………」


「最近連絡しても返事がなくて」


さっきまで、俺を不審者みたいな目で見ていたこの目の前の女性は俺に近づいた


「あー、奈々未の知り合いねー聞いてないのかな?」


「え?」


「奈々未、引っ越したんだよ」


へ?


引っ越し?


よく見ると部屋の前には前まではあった橋本っていう名前の表札がなくなっていた




「どこへですか?」


「えっとねーたしか、実家帰るって言ってたから北海道だよ」


「北海道………」


「うん、それで、大学も休学したのよでもねずっと実家の方に帰って来いって言われてたらしいんだけどずっと断ってたのよでもね、急に帰るからって言って」


「そうなんですか…………」


「うん、本当につい3,4日前かなでも、荷物また取りに来るって言ってたから」


「そうですか……」


奈々未が引っ越したって

マジかよ



たぶん、それは俺が関わってるのだろう



「ねぇ、君って奈々未の待ち受けの人でしょ?」


「待ち受け?」


「うん、前にちらっと見えた時の写真にそっくりだ」


「いや、それはないっす、俺写真撮ってないと思いますから」


そうだ、俺は奈々未と写真なんか撮ったことない、奈々未とは特別な関係だったから


「じゃー、奈々未うまく撮ったんだね、その写真寝顔だったから」


「…………そうっすか」




「なんだったら私、会ったら伝えときましょうか?」


「だったら、ありがとうって伝えてください」


その言葉を聞いて彼女は少し笑った


「なんか、意外ですねもっと愛の言葉みたいなのを言うと思ってました」


「そう……ですか、じゃ」

彼女はふふっと笑うと小さく手を振りながら階段を下りて行った
あの人勘違いしてんなー、俺と奈々未の関係を知ったら手なんか振れねーよ
俺は、少しだけ奈々未の部屋の前で立ち尽くした、でもまた怪しい人だと思われたくないから階段をゆっくり降りていく


階段を下りていくと目に入る、見慣れたような懐かしい自転車がぽつんと置かれていた



あ、あれは………


少しだけ籠が曲がっていてチェーンが取れそうな奈々未のチャリ



思い出せば、この自転車が俺と奈々未を出会わせた
キーマンだ、俺はあの時の思い出を、奈々未と初めて出会った思い出を思い出すかのようにそのチャリの前にしゃがみ込んで、今にもチェーンが外れそうなチャリを下から覗き込んだ









ライト ( 2016/03/08(火) 00:14 )