第10章 心の声
08

「中田先生ここでいいですか?」



その声は遥香だった


遥香は俺の方を一瞬だけ見て
さりげなくそらした


「悪いな、島崎、そのプリント今日の5限の時に使うから
クラスに配っといてくれるか」


「はい、わかりました」


「おーそうだ、いいことを思い出した
まだ、時間もあるし、この前フランスに行った時の
お菓子があるから、手伝ってくれたお礼に食べていきなさい」


「あっえっと」


俺は遥香の方をちらっと見た
遥香もやっぱり気まずそうだった


でも断るわけにもいかず
俺と遥香は机に座る



「わしは、ちょっと職員室に忘れ物したから
取りに行ってくる、二人ともホームルームには
遅れないようにな」


先生はそのまま教室を後にする


これは神様からのチャンスなのか

朝から二人きりなんて



でも一昨日の涙の後から
俺たちは顔を合わせてなかった


どことなく気まずくて
俺は目の前に並べられたおしゃれなお菓子を
沈黙を破るかのように食べる


「うまっ」


俺は少し恥ずかしくなる
思っていた以上においしくて
食べたことない味だったから
思わず口に出てしまった





「ほんとだ、おいしい」


でもその言葉で一気に嬉しくなる
俺の言葉が出ると遥香もお菓子を1口食べる
そして俺に笑顔を見せる




「風邪、大丈夫?」


だから、さっきより話しやすくなった


「うん……ちょっと熱が出ただけだから」


「そう」


普通を装っているが
どこかぶっきらぼうな答えになってしまう


「一昨日は寒かったもんな」


「え?」


「だって、あんな格好でいたら
誰だって風邪ひくよ」


やっぱり、俺がモップを手伝ってもらったから
風邪をひいたのだろう
だってあの時の遥香けっこう薄着だったもんな


「ごめんなさい………」



ん?


ごめんなさいって



どういうこと?



なんで遥香は今謝ったの?



分かんねぇー


「本当にごめんなさい」


俺の耳に2回目のごめんなさいが
届くと、遥香は俺の前からいなくなった




俺は1人になった教室でただ
動けなかった








ライト ( 2016/02/17(水) 21:20 )