10
大場宅を出た彼は暗い夜道の中を歩いていく。
夜の7時。珠理奈はとっくに帰宅している事だろう。腹を空かせて自分の帰りを今か今かと待ちぼうけているに違いない。
そう思うと歩きから早歩き、早歩きから小走り、小走りからダッシュへと速度を徐々に上げていった。
そして近道の木々が生い茂る裏道にさしかかると彼の前にフードを目深に被った二人組が現れた。
「何か用かな?」
帰路を妨げられた健太は学校では絶対に見せないような威圧的な眼光で彼等を睨んだ。
「おー、怖い怖い!せっかくのイケメンが台無しだよ?」
聞き覚えのある声に彼の眉が少しだけ反応する。
するとその二人は続けて喋り始める。
暗くて表情はよく見えないが声色からして同世代ほどの女性と確認できた。
「やっほー、健太!久々だよね?ずーっと探してたんだよ?」
「健太?まさか、あたしらの事忘れてないよね?」
再び聞こえる懐かしい声に彼の眼光が少しだけ緩む。
「そ、その声はまさか……」
次の瞬間フードを脱いだ二人は殺意を込めた目線で健太を睨んでいた。
「敦子、友美……」
「健太…3年前、何で施設を出たの?何で私達の前から消えたの?何で……幸せにのうのうと生きてるの?」
「それは………」
「言い訳はいいよ。とりあえず大人しく捕まってくれないかな?」
「敦子、友美。君たちを置いて去ったのは謝る…だけど、僕はもう戻る気はない。実験も検査ももううんざりなんだよ。」
「ふーん……それが答えってわけね?連れ帰るのがダメなら消せって言われてるんだよねー。とも?殺っちゃう?」
「そーだね。殺ろっか?敦子!」
二人は懐から果物ナイフを取り出すと切っ先を彼に向け真っ直ぐに突進してきた。
彼は咄嗟に頭上の太い枝に飛びつき懸垂の容量で2人の突きを躱すと目にもとまらぬ速さで果物ナイフを奪い彼女らの喉元ギリギリを捉える。
「君たちが僕に適うわけないだろ?」
彼はそのままナイフを地面に落とすと踏み潰し砕いた。
そして悔し涙を浮かべる二人を無視して他に危険物がないか体をまさぐる。
「くぅ……ぁん……」
「ぁ…ぁっぁ……」
際どいところを通過するたび官能的な吐息を漏らし太ももをくねらせる二人に合わせて彼の口角も上がっていく。
「ふふ……僕を殺しに来たくせに僕に触られてよがるなんてとんだ変態女たちだね?」
「ぁ……だって……健太の……はぁ……ぁん……能力……わぁ……んぁ…ぁ……」
快感に耐えながら喋る彼女達の口を塞ぐと彼は自ら口を開く。
「そう、僕の能力は超身体能力の他にもう一つ力がある。他人を支配する能力だ。異性だろうが同性だろうが関係なく発動する厄介な能力さ。異性は目を見つめるだけで意のままに操れる。さらに直接身体に触れれば快感を与えることもできる。ただし、同性は体の何処かに触れてから目を合わせなければ通じない。同じ血統でもない限り逃れることはできない。」
そう呟くと彼は弱々しく抵抗する二人の目線に”目”を合わせた。
「”今日からはまた僕の兄妹だ。二度と施設に戻るな”」
「「うん…わかった…けんた……」」
すっかり時間を忘れてしまっていた彼は彼女達の身なりを戻しつつ珠理奈に電話をかける。
ーーーーその頃彼の妹珠理奈は兄に秘密でかなり前から行っている自慰に励んでいた。
「ん……あ……!はぁ……ぁん…!……あっ!…ぁん……ぁん……あっ!あっ!」
「ブーッ!ブーッ!」
そして絶頂までもう少しというところで枕元にある携帯が鳴り響く。
「んもぉ……いいところなのにぃ………あ!お兄ちゃんだ!」
自慰の邪魔をされたにも関わらず兄からの着信に機嫌を戻す彼女。
実に単純である。
「語り手うっさい!お兄ちゃんに電話するんだから!シッシッ!」
珠理奈はすぐ様携帯を手に取り兄からの着信に応答する。
「お兄ちゃん!もぉ〜遅いよ?ご飯もう食べちゃったんだからね?」
「まぁまぁそう怒るなって…敦子姉ちゃんと友美姉ちゃん連れて帰るから機嫌直してくれよー?」
「え!!敦姉と友姉が来るの?!やっっったーーーー!!!お兄ちゃんはやくはやくぅ!!!お姉ちゃんと遊びたいからー!!!」
「それじゃ、楽しみに待ってなよ?」
「はーい!いーこちゃんで待ってまーす!」
彼女は電話を切りベッドに寝転がると口角を上げる。
「ふふふ……敦姉と友姉、どっちを”玩具”にしようかな?」