高柳明音〜懐古〜
【B side】
シェアハウスへと向かう車内で明音はうつらうつらしていた。
ゆらゆらと心地よく揺れる車は明音に眠気を連れてくる。
ここ数日は愛希の様子をずっと観察していたため、ほぼ徹夜状態なのだ。
ストーカーと同じようなことをしているが、実は理由がある。
それは明音が高校卒業後に最後に愛希の家に行った時のことで、明音は眠気と戦いながら思い出して覇気を入れていた。
幼馴染である二人の家はかなりの近距離にあったが、思春期を迎えた高校生の頃は一緒に通うことは無かった。
明音は友達としゃべりながら通い、愛希は一人で音楽を聴きながら通っていたのだ。
愛希は愛希で友達はいるのだが、同じクラスになったことのない明音はその姿を見る度に心配していた。
何度声をかけようかと思っていたほどだ。
そうして、三年間は過ぎ去って行ったが、その最後、愛希から電話があった。
「明日、久しぶりに遊ばない?」
明音は気分が高揚した。思わずその場で飛び上がったほど。
その感情の理由は今でも分からないというより分かりたくないと思っている。
しかし、高揚した気持ちを抑えて明音は渋ってみせた。
「えー、どうしよう」
「姉ちゃんが呼べってうるさいんだよ」
「え?……分かった、行く」
愛希の姉が呼んでいると聞いて、明音は不審に思った。
しかし、断る訳にはいかないと了承して、その電話を切る明音の通話後のため息は愛希に聞こえていなかった。
翌日、明音はなんだかんだ言ってはやる気持ちを堪えて、落ち着いて古川家のインターホンを鳴らした。
そして出てきた愛希の姿を見、明音の心臓は高鳴った。
「おう」
「お邪魔します」
靴を脱ぎ、そろえると、懐かしい小学生の頃ぶりの古川家の「におい」がした。
「姉ちゃんが帰ってくるまでどうする?」
「んー、久しぶりに愛希の部屋に行っちゃおうかな」
明音ははにかみながら明音は照れ臭そうに冗談っぽく言った。
愛希は驚いたようなそぶりを見せ、すぐに笑顔になり、廊下のドアを開けた。
二階にある愛希の部屋は昔よく遊んだところである。
リビングにあったロールケーキを愛希は適当に切ると、お茶を持って2階へ上がった。
明音もそれに続く。
ドアを開いた先にあったほぼ6年ぶりの世界は昔と変わらないままだった。
「相変わらず変なモノしかないね」
「まあな」
当然、明音と愛希の会話はほとんど続かなかった。
室内にロールケーキを食べる静かな音だけが響き、重苦しい雰囲気が居座っていた。
「姉ちゃん遅いな」
「どこか行ってるの?」
「買い物だってよ。夜ご飯とかなんとか」
そう言って愛希は窓の外を見た。
うららかな春の日差しが外の木々を照らしている。
「ただいま!」
そんな時、玄関から大きな声が聞こえた。