第5章
03
その晩…優希は寝れずにいた。親に言おうか言わまいか迷っていた。隣では美桜が気持ちよさそうに寝ている。

(はぁ…どうしようかな。早く言わないといけないのはわかってるけど…言いずらしいし…)

だが、優希は決心した。

(よし、ずっとモヤモヤしてるのも嫌だし…言いに行こ!ダメな時はダメなんだし…よし!)

優希は美桜を起こさないようにベッドから出ると、階段を降りた。リビングでは父と母がテレビを見ていた。優希はそーっとドアを開けた。

「お、優希どうした?寝れないのか?」
「ちょっとね…」
「優希が寝れないなんて珍しいわね。ま…お茶でも飲んでゆっくりしないさいよ。その内眠くなるから。」
「ありがと母さん。」

その後しばらくテレビを見ていたが、なかなか言葉が出ない。時間は刻一刻と過ぎていく…やがて、優希は重い口を開けた。

「父さん…話があるんだけど…」
「何だ話って?」
「あのさ…卒業したらなんだけど…」
「卒業がなんだ?進路決まってるんだろ?」
「実はさ…卒業したら、福岡住むことに決めてさ…」
「え!?優希何て言った?」
「だから、卒業したら福岡住むこと決めちゃって…その、美桜と約束したし…」
「あんた何を言ってるのよ?進路決まったのに何を急に…」
「……」
「先生には?」
「休み前に言ったよ、先生はびっくりしてたけど、でも…約束したから…」
「約束って…そんなもん卒業したらすぐじゃなくていいでしょ?何勝手に決めて自分から内定取り消しなんか…」

母は優希に怒っていた。父は黙ったままだ。

「私は反対ですからね?そんな我儘許されるわけないでしょ?明日にも先生に…」
「母さん待てよ。優希、美桜ちゃんとずっと一緒にいたいのか?」
「それは…大好きな彼女だし、ずっと一緒にいたいけど…」
「それはそうだよな。わかった、福岡住むこと許そう。」
「え…」
「ちょっとお父さん何を…優希は私達に相談も無しで…」
「母さん、少しは冷静になりなよ。優希は今まで我儘なんか一回も言わなかったんだ。それは俺達がずっと家にいなかったから、家のことを優希がやってくれたんだ。部活も辞めてバイトもせず、家事をしてくれたんだ。それに限らず美音の世話までして…優希は自分の時間も削ってまでしてくれたんだ。それなのに、これまでダメって言ったら…わかるだろ母さん?優希にとったらこれが最後の我儘かもしれんから、優希の福岡住むの許してやれよ。」

父は優希の気持ちを代弁して話した。

(父さん…ありがと。まさか父さんが許すとは思わなかった…父さんも断るって絶対思ってた。)
「母さん…いいだろ?」
「はぁ…わかりました。父さんがいいなら、優希が福岡住むこと許しましょう。優希、福岡住むだけじゃダメよ?仕事探すか学校行くか。」
「母さん…ありがと。父さんも。」
「ああ。優希、美桜ちゃんと可愛い孫見せてくれよ。」
「父さん早いよ…」
「あらまぁ…さ、優希もう寝なさい。これのことで寝れなかったんでしょ?」
「うん…」
「ほら、早く寝ないと。」
「うん。父さん、母さんおやすみ。」

優希は上に上がって行った。

「そうか…優希は福岡に住むのか。」
「まさかあの子があんなこと言うなんて…」
「優希はほんと、我儘なんか言わなかったからなぁ…これが最後の俺らに対しての我儘かもな。」
「そうですね。」
「早く優希の孫が見たいなぁ…」
「お父さん早いですよ。まだ結婚もしてないんだから。」
「ははは。さ、俺達も寝るか。」
「ええ。」

父も母も上に上がった。

夜明け前 ( 2018/08/26(日) 15:06 )