美しい桜と音-2学期編-










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第6章
08 勝と大違い
家に着くと、優希はドアを開けた。少し遅くなったから誰もいないだろうと思っていたが、ちょうど美音が階段を物凄い勢いで下りてきた。どこかへ行くのだろうか?

「美音、どっか行くの?」
「うん。友達の家。」
「友達って柊の家だろ?」
「ううん、柊ちゃん家じゃないよ。柊ちゃんとこ今旅行行ってるの。じゃあね。」

そう言って美音は行ってしまった。

「あの子、妹さん?」
「ああ、向井地美音。俺の妹、たまに手を焼くんだけどね。」
「友達の家行くって言ってたけど、いいの?」
「別に縛ってないしいいよ。まあ、ここ最近友達の家に泊まってばっかだから、いい加減にっては思うけどね。」

確かにそうだ。ここ最近の美音は家に帰ると優希に『友達の家に泊まって来る。』とよく言う。いいことだが、たまには家でゆっくりしたらとも思う。翌日学校行く準備を持って行ってるが、着替え持って行ってるのか?そこまで気にするのはどうかと思うが、向こう方に迷惑がかかってしまう…第一自分らは親があまり帰って来ないから、余計向こう方に迷惑がかかる。兄としては申し訳ない気持ちでいっぱいなのだ。

「ま、上がりなよ。」
「うん。」

白間を家に上がらせると、優希はお茶を出した。

「はい、何も入ってないから大丈夫。」
「う、うん…」

嫌味で言ったわけではない。自分はされたが、やり返さない。疑われるのは仕方ないが…

「落ち着かん?」
「ちょっとね…」
「家誰もいないから。」
「親さん仕事?」
「仕事だけど、ほとんど家に帰ってこやん。共働きでさ、たまーに帰って来てるらしいけど、なかなか会わない。だから、ほとんど妹とおるから慣れたけど、始めは苦労したね。上だから何もかも全部やらないとさ…掃除に洗濯に料理に…今は妹も中学生だからある程度のことは出来るけどね。」
「そうなんだ…いつからこの生活になってるの?」
「うーんいつから…あまり詳しく覚えてないな。俺が中学上がったか上がってないかぐらいじゃないかなぁ…」
「親さんの顔とか覚えてる?」
「そこまではないよ。去年もクリスマス一緒だったし…まあ、半年いないけど忘れてはないよ。」
「そっか…」

優希の複雑なプライベートを聞いて、白間は大変だと感じた。自分とこは親がいる、当たり前に住んでいるが、優希のとこは親があまり帰って来ないため、優希・美音の二人暮らし。全然想像がつかない…それを、今までやってきてる優希は凄いと思ったのだ。

(なんか感心しちゃう…私はそんなんも知らずにやっちゃったんだ…最低な人間だな…)

何であんなことをしてしまったんだろう…白間は自分が憎くて仕方なかった。

「向井地…」
「ん?」
「ほんと…ごめんなさい。あんたのことなんか考えずに…」
「気にすんなよ。」
「ほんと…」
「大丈夫だって。そんなに根持ってないから、安心しな?」
「うん…ありがと…」

白間の目からは涙が溢れた。優希はタオルを渡した。

「拭けよ。」
「うん…勝とは大違い。」
「え…あいつと?」
「勝は私のことなんか全く…自分勝手な奴なの…」
「それは文化祭の時によくわかった。あんな奴は久しぶりに見た。」
「おかげで今はすっきり、別れて正解だった。」
「別れたのか勝と?」
「うん。全然幸せじゃなかった、ねぇ向井地。」
「何だ?」
「彼女がいるあんたに申し訳ないけど…」
「まさか…」
「勝のこと…忘れさせてくれないか?」
「やっぱり…」

優希は薄々感じていたことが的中したが、ここまで頼まれたら断れるわけがなかった。

夜明け前 ( 2018/01/08(月) 16:00 )