だけど、君が大好きで──
02
次の日も、僕は海沿いを歩きながら帰った。

もしかしたら飛鳥がいるんじゃないか、という期待がなかったとは言えない。

でもあんなことをされたんだ。少しぐらい謝ってくれてもいいじゃないか。

だけどそんの謝罪の連絡が来るわけもなく、ただ僕の意地悪になって終わってしまいそうだ。

やっぱりそこにはいなかった。

まるでワンフレーズだけ切り取られたような風景だった。
飛鳥がいたところだけが切り取られて、まるで何も無かったようにその先が見える。

僕は通り過ぎるはずもなく、昨日と同じ防波堤に座る。

目の前を見れば、真っ青な海、真っ青な空、真っ白な砂浜。全部が映えて見えた。

僕に息を飲む隙すら与えずに、波は押し寄せてくる。
でも波はどこか優しかった。そこにギラギラと太陽が照りつける。

いてもたってもいられず、靴下を脱いでその海に足だけでも忍ばせる。

じゃりじゃりとした砂のあの感覚が足裏に過ぎった。
見る分には優しかった波が、ここでは突き刺さるように痛く感じた。

そんなに勢いがある訳ではないのに。

水面に反射した僕の顔は何故かクシャクシャな顔をしていた。


次の日も僕はあの防波堤にいた。

でも昨日と違うことが一つ。

それは青い花柄のワンピースを纏った君が、隣で息をしているところだ。

相変わらず小さくなって佇む飛鳥。

前会った時よりも悲壮感を覚えるような、そんなような姿だ。勿論は会話はないし、笑みすら浮かべていない。

僕が隣にいる事が嫌なのかも、と思ったが、嫌な顔せずただ前を向くだけ。それが唯一の良かった点といったところか。

会話がないのは別に普段でも有り得た事なのに、今日に限ってはその沈黙が何だか心苦しい。
訳の分からないもやもやが僕の心を包んでいる。
だけどそれを打破できる訳もなく、僕はただ唇を深く噛むだけだった。

聞こえてくる音は波音、そしてカモメの鳴き声。そして時折吹き付ける海風。

「私、好きな人出来たんだ」

不意に彼女の口が開いた。

そう言った飛鳥は、防波堤を降り、砂浜に立つ。

なんだ、飛鳥が考えていたのはこの事なのか。僕なりに合点がいった。

『好きな人、か…』

僕も並んで砂浜に飛ぶ。隣の飛鳥は木の枝を拾って、砂浜に何か書こうとしているところだった。

書こうとしていたのは文字っぽいが、何を思ったのか飛鳥はそれを全部手で消してしまった。

「なんか〇〇に言うの恥ずかしい」

そう言って僕の額に、またしてもデコピンをかましてきた。
心做しかこの前よりも力弱く、優しさのあるデコピンだった。

『じゃあこの前考えてたのって、そのこと?』

僕が問うと、飛鳥は小さく頷いた。

それからまた無の時間が続いた。でも二人の間に気まずさなんてものは無かった。

そして飛鳥はまた木の枝を手にして砂浜に書き始める。
書かれた文字は“友達”というもじだった。

「あのさ、」

一言飛鳥がぽつりと言う。僕は飛鳥を見る。
横顔が次第に動いて正面へ。

「〇〇は…ずっと友達で居てくれる?」

軽く首を傾げた飛鳥は、そう言った。

僕は唾を飲み込んで、

『もちろん』

そう言った。


Tone/とーん ( 2020/03/16(月) 00:37 )