だけど、君が大好きで──
01
『僕はずっと応援してるからね』

そう告げる僕の声は凛としていて、はっきりとしていた。


君と仲良くなったきっかけは、席が隣になった事だった。

「おい、〇〇!」
『なんだよ飛鳥』

“飛鳥”は隣の席の僕を呼びつける。
どうせたいしたことはない。
飛鳥の意地悪と言ったところだ。

飛鳥はクラスの中でも一番の人気だ。
その容姿にスタイル。女子でさえも惚れてしまうみたいに。

そんな飛鳥と僕は、周りが見ても仲が良かった。
他の女子からも「飛鳥と付き合ってるの?」なんて聞かれたことしばしば。

勿論付き合ってるわけでもない。
僕と飛鳥はただの仲の良い友達。気の合う友達だ。
それを勘違いしてくる人もいるが、僕はその度に何度も否定していた。


そんなある夏。

あいにく頭が良くなかった僕は、補習を受けていた。
夏休みを潰しにかかる、そんな補習終わりの帰り道。
いつも通る海岸沿いの道に出た。

夏の暑さのせいでこの海に入ってやりたいくらいな気持ちになる。
だけどそんな無邪気なことは僕は出来ず、ただ海を横目に歩くだけ。

そんな僕の視界の隅っこに、見慣れた飛鳥らしき姿が入った。

防波堤の上にちょこんと小さくなって座っている。

『飛鳥?』
「…〇〇?」

少し離れたとこから名前を呼んでみた。
振り返ったのは紛れもなく飛鳥だった。

ゆっくりと近づき、飛鳥の横に座った。

「何してんの」
『〇〇こそ』

夏らしきワンピース姿。華奢な体がより綺麗に見える。
一方僕は少し暑苦しい制服姿。

『補習だよ』
「そっか、〇〇馬鹿だもんね」

そう告げた飛鳥は指を僕の顔にもってくるやいなや、額にデコピンをかましてくる。

『痛っ!何すんだよ』
「あはは」

飛鳥はいつもの様にあの乾いた笑い声をあげる。
聞き慣れたあの意地悪な笑い声。

でも、いつものような表情じゃなかった。

一瞬笑って、しゃがんでいた足元に目線を向け、黙ってしまった。

その横顔が、綺麗なのに儚くて。脆くて。
風が吹いたら全部なくなってしまいそうな、横顔だった。

『なんかあった?』

僕がそう問いかけると、彼女は無言のまま首を横に震った。
何にもないわけないのに。

飛鳥が何か思い詰めていることはわかった。
でもこれ以上に詮索するのは止めた。

無言のまま、僕らは防波堤の上で座ったまま。
飛鳥を見れば、砂浜の先をずっとただ一直線、眺めていた。

聞こえてくる波の音に合わせるように、指を一つ一つ折っていた。
無言の中に聞こえてくるさざ波は、僕には単なる波の音にしか聞こえない。

だけど飛鳥には違うように聞こえているだろう。

『あのさ──』

僕が声をかけようとした時、はっとして口を噤んだ。

きりっとした横顔がまた視界を占める。
まるで鋭利な刃物のように、僕の指に突き刺さってくる。

「そっとしといて…」

そう言って、飛鳥は僕の肩を突き飛ばされた。

よろけた僕は流れでそのまま防波堤から放り出される。
だけど飛鳥はそんな僕には目もくれず、ただずっと海の方を向いていた。

僕には怒りの気持ちもなく、飛鳥の事の方が心配に思えた。

下から見上げる僕には、君が、飛鳥が何を思っているのか、分からなかった。


Tone/とーん ( 2020/03/16(月) 00:36 )