意気地無し
04
校舎を出て二人で並んで駅へと向かう。学校の中じゃこうして二人で一緒にいると、「付き合ってるの?」なんて変な噂をたてられちゃう。だからあまり侑也の邪魔にならないように、二人っきりで居るということは辞めた。

でもこうして帰る時だったり、遊んだりする時は我慢せずに侑也の隣を独占できる。

「行きたいとこあるんだよね」
『えぇ、どこなの?』
「うーん、教えなーい」

意地悪そうに舌を出して私をからかってくる。侑也からは私のことを弄るのが楽しいみたいだ。

『もう侑也のバカ!』
「バカですいませーん」

まるで反省の「は」の字すら感じ取れないその言葉。でもこうして馬鹿にされていてもそんなに嫌だという感覚はなかった。

そんな侑也に連れていかれ、電車を乗り継いでやってきたのは水族館だった。侑也が行きたいところっぽくないところだ。

『ここ?』
「そう!水族館で癒されたいんだよな」

かっこいい所もあるけど、こんな子供っぽい所もある。そんな侑也のギャップに私はときめきを感じないわけがなかった。

水族館に入るなり、侑也の目がキラキラと輝く。まるで小学生のような、初めてのものを見たような目をしていた。

「うわ、これきもちわる!」
『ここらへん、変なやつばっかぁ』

「サメいるじゃん!」
『ねね、ホッキョクグマもいるよ!』

案外私も楽しんでるかもしれない。侑也に着いていきながら水族館内をどんどんと進む私。

そんな私の頭の中は真佑から言われた一言でいっぱいいっぱいになろうとしていた。

──

「紗耶は、高橋君のこと好きだよね?」
『う、うん…』
「じゃあ今日、手繋いじゃお!」
『えぇ!? 無理だよ!そんなの!』
「いーや、やるの!紗耶がやったら高橋君だって振り向いてくれるよ!」
『ほ、ほんとかなぁ…』

──

昨日の会話が何度も蘇る。そのせいで私の心臓のバクバクがこれまでないくらいだ。

所々挑戦しようと手を近付けてみても、侑也は気づいてくれずに子供のようにはしゃぐだけ。私が気合いを入れてるのが馬鹿みたいに思えてくる。

『はぁ……』

思わず溜め息をついてしまう。別に侑也が悪いわけでもなく、私が“意気地無し”で何も出来ないせいなのに。

水族館の中を歩くのも疲れてくる。あっちに行ったりこっちに行ったり。それが嫌な訳でもないが、歩き続けるのは疲れるものだ。

私は、侑也の背中をトントンと軽く叩く。

「ん?どうした?」
『ちょっと疲れたから、休まない?』

そう言うと侑也はうんと言って頷いてくれた。近くにあったソファーの椅子に座る。

休憩というものの会話はあまりない。私は緊張しちゃった話せないし、侑也は目の前の大きな水槽に囚われてしまっている。

『もう行こっか?』
「まだ休まなくていいの?」
『うん!大丈夫!』

そう言って私は親指を立てた。

ソファーから立ち上がり、既に立っていた彼の手を軽く見る。繋いでみようか、なんて思っても直ぐにそんな気持ちはへし折られる。こうして繋ごうと思ったのは今日で何度目なんだろう。

少し歩き出したかと思えば、突然侑也が立ち止まった。

『どうかしたの?』

私もつられて立ち止まり、気になってる侑也に聞いた。だけど侑也は目線をこっちに向けてくれずにいた。

「手貸して」
『え、うん……』

そのまま手を侑也の方に向ける。突然こんなこと言うなんて不思議でならなかった。

すると侑也は、差し出した私の手に自分の手を重ねてくれた。

『えっ?』

なんで急に手を繋いでくれるの、なんて驚いた私には一瞥もくれずにいる侑也。

「ちょっと人多くなってきたし、はぐれないようにさ…」
『あ、ありがとう……』

全然人なんか多くないのに、はぐれることなんてないのに。でも彼のその不器用な感じが伝わってきた気がして、胸がいっぱいになる。
それに、私が何度も挑戦して出来なかったのに、侑也は不器用なりにやってくれた嬉しさで笑みを隠せないでいる。自分でも顔が紅潮しているのが直ぐに分かった。

今日一の心臓の高鳴りを感じながら、私は手を彼に委ねる。

「紗耶の手ってこんな小さかったっけ?」
『違うよ!侑也の手が大きくなったんだよ!』

大きくなった彼の手をぎゅっと握りしめて、そこにちゃんと存在を確認できるように、感覚を忘れないように何度も握り返した。

Tone/とーん ( 2020/01/17(金) 12:23 )