第3章【新天地編】
34話【番外編】
修二と連絡が取れなくなる前のお話。奈々未を含めたなでしこジャパンは女子W杯の予選に望んでいた。

「ななみん!パス!」

「しーちゃん!」

試合も後半残りアディショナルタイム3分。グラウンダーのスルーパスをスーパーサブとして終盤に起用された白石が受け取ると反転しながら蹴ったボールはポストに当たる

「もう!なんで!」(黒石発動)

跳ね返ったボールはもう一度白石の前へ。1度目のシュートに反応して飛び込んたキーパーの反対へ必要以上の速度で怒りのシュートを決め決勝点。そのまま試合は終了し予選を通過した。

「1発で決めたかったのに!」

「しーちゃんナイスシュート!」

若きナデシコの活躍で予選1位で通過し開催国のフランスへ向かう。
本戦へ向けて濱口監督率いるなでしこジャパンは前日練習後に異例の采配を発表する。

「えー、本戦に挑むにあたって大事な初戦だ。だがこのチームはまだまだレベルを上げれるはずだ!進化には経験が付き物、という訳でスーパーサブとして使ってきた橋本、白石、松村をスタメンにする。若干19歳3人の成長がこのトーナメントを勝ち抜く為には必要だ!」

「「「は、はい!」」」(((スタメン!?)))

3人は平然を装うがビビりまくってることは誰が見ても一目瞭然だった。

初戦の相手はオレンジ色の雌ライオンで有名の優勝候補オランダ代表
キックオフは日本代表『エリアの白騎士』の足元から始まった。

誰が見てもビビりまくってた3人だったがボールを1度触るとサッカーを楽しむ子供のようにリラックスしていた。しかし前半20分女子サッカー界の最高峰の選手であるリーケ・マルテンズを中心に早いパス回しでペナルティエリア。エースのリーケへボールが渡るとシュートモーションに入るがCBの松村の強烈なタックルでよろけた所に橋本が追いつきボールを奪取。苦し紛れにクリア誰の目から見てもそう見えたが橋本の狙いはツートップの一角の白石。
センターサークルでトラップするとマッチアップの相手選手がプレッシャーを掛けに来たが持ち前の繊細なボールタッチでキープして味方の上がりを待つと橋本のカバーを任せられDMFとして起用されていたキャプテンの高橋みなみが上がってきた。白石は高橋に渡すと「ゆっくり落ち着いて行こう!」そう言い放ち縦や横にボールをはたきオランダの猛攻のペースに飲まれぬよう日本のサッカーをすれば良いと示すようにじわじわと慎重にボールを高い位置へ運んで行った。そしてボールはペナルティエリア手前の『ゴールへの橋掛人』の足元へ。
意表を突くダイレクトでゴール枠内へ飛んでくるボールにキーパーも飛び込むと『エリアの白騎士』が軌道を変えるオーバーヘッドでキーパーの逆をつき先制点。
味方も敵も誰もがシュートと思ったボールをアクロバティックな軌道変換でのゴール。間違えなく今大会ベストゴールの瞬間だった。

しかし黙って引き下がる訳のない強豪オランダはリーケの正確無比なスルーパスでCBの裏に出され一瞬にしてピンチ。
『ピッチの姫』が必死に追いかける。相手は一瞬止まるとシュートモーションへ、決死のスライディングはボールと一緒に相手選手の足も巻き込みPKへ。誘われた。そしてまんまと引っかかった。キッカーはリーケ、難なくスマートにあっさりと同点になってしまった。
松村の頭の中にはネガティブな単語が羅列される。

「2点までは大丈夫!今日の私はハットトリックするから!」

「今のは相手の誘いが上手かっただけでしょ!次はこっちの番よ。」

「まいやん、ななみん。せやな!うち悪ないやんな!」

「「「反省はしなさい!」」」

チーム全員から総ツッコミを受けるも明るく切り替えられたなでしこジャパンはその後も相手のペースになることなく時間が進み後半戦残り10分白石のシュートがキーパーに阻まれるもコーナキック。
監督はキッカーに橋本を抜擢し松村に上がるよう指示した。
橋本の右足からまるでキレイな虹を描く様にファーにいた相棒の白石の頭へ向けて飛んできた、オランダの選手も白石の優秀なFWが放つ異様な雰囲気に気付きより一層マークを多く厳しくし3人に囲まれた白石はジャンプしただけで何も出来なかった。いや、何もしなかった。
ペナルティエリアの外から全力疾走で走ってきた松村が白石ごとボールの落下点に居た相手選手を弾き飛ばしながら強烈なヘディングで勝ち越した。

「やったー!今日のヒーローうちちゃう?」

「まっつん!決めてくれると思ってたよ!」

「松村ぁ!私ごと弾き飛ばしたな!」(黒石発動)

「ななみんナイスパス!まいやんそんなカリカリしたらあかんで〜」

「だからあんたは反省しろー!」

「2人ともリスタート行くよ」

「「はーい」」

試合はその後黒石モードになった白石が2点目を決め橋本3アシスト白石2得点松村1得点の3対1と若きなでしこの活躍と言う下馬評を覆す結果で日本の勝利

この試合で何かが吹っ切れた3人の顔はただサッカーを楽しむ子供の顔ではなく紛れもないサッカー選手の顔になっていた。










そして決勝アメリカ戦。1対1の同点で延長戦も終わりPK戦へ。

アメリカの選手は5本決め日本も高橋みなみ、大島優子、前田敦子、白石が決め奈々未が外せば負けが確定の場面。奈々未の蹴ったボールは力強く振り抜く。

パーンっと高い音を鳴らしポストに当たったボールは無情にも奈々未の足元へ転がって来た。

負けた現実を受け入れられずほとんどのなでしこの選手泣き崩れるが白石、松村、橋本のプレーは女子サッカー界を盛り上げ、なでしこジャパンの未来は明るい事を証明した。このW杯の活躍により別々のアメリカやフランスの有名チームからオファーを受けた同世代の3人を総称する愛称として御三家と呼ばれるようになった。


東魁 ( 2020/08/11(火) 21:29 )