17話
「ねーちゃん声でけーよ。」
そう呟きながらポジションに戻ろうとするとおんなじ方向から声が飛んできた
「修二さんナイスシュート!」
「ちょっと美波!蒼の応援に来たんでしょ!なんで修二くん応援してんの!」
「えー、だって修二さんの方が優しいんだもん。」
この子は白石美波、容姿端麗で長身MFとして乃木高女子サッカー部の中心選手、U-18日本代表。白石家の末っ子。修二のファン
喧嘩している2人をよそに試合は進み、1対1で前半終了、
1点目以降ノアンに封じ込められているゲルト
蒼も修二へのマンマークで完璧に抑えられている
お互い決定機を掴めないまま後半に入るとドルトムントがポジション変更してきた。
「蒼がサイドバックか」
「チームだった時見た事は?」
「無いな。だが向いているのは薄々感じていた。視野も広く一対一では絶大な強さを持ってる、何より小柄なセンターバックは話題性はあるが世界で戦えないと思ったんだろうよ。」
「秘密兵器ってもしかしてこれのことだったのかな」
「蒼も付け焼き刃の武器なら通用しない事くらい分かってるだろう、なんか嫌な予感がする。」
レアルボールから試合が始まると前半のマンマークより修二は抑えられていた。
左サイドバックにいる蒼の的確なコーチング、ライン指示、直接修二に付いている訳ではないのに完璧なコーチングでパスカットを量産していく
修二が下がりセンターサークルでボールをもらうとドリブル突破の強攻策に出る。
1人、また1人と抜いたと思ったら目の前には蒼の姿が。抜いたのではなくコーチングで抜かせて追い込んだ修二から蒼はボールを奪うとそのままサイドを駆け上がり今度は攻撃の起点役に
ゲルトはノアンの視線が自分から蒼に行ったのを確認するとノアンの死角に逃げフリーに
ノアンも慌てて追いかけるがその数歩先で蒼からのセンタリングを合わせるゲルトに間に合わず勝ち越される
「すまん修二。」
「あの爆撃機、オレの真似しやがって。」
「白石蒼、ディフェンスのタイマン能力だけかと思っていたが甘く見過ぎてたよ。」
「いや、こればっかりはオレも油断してた。成長したのは俺たちだけじゃない、『あいつら』も成長してる。でもここで終わるわけにはいかないんだ」
「僕も攻めるよ、いつもより厳しいパスするけど修二なら大丈夫だよね」
「いつものパスがぬるすぎてた所だ!頼むぜ!」
「強がっちゃって」
試合が再開し残り10分
ノアンの予備動作の無いパスに蒼のコーチングはハマらなかった、だが蒼はコーチングで修二を抑えれるそう思っていた。しかし優れたパサーを得たストライカーは蒼の想像を超える
蒼はノアンとは距離を取りコースを塞ぐコーチングをし封じようとするも、ノアンはパスを出さずペナルティエリア手前まで持ち込んだ。シビレを切らしたセンターバックが蒼のコーチングを無視し向かって来る瞬間、獅子を封じ込めていた罠に綻びが出た
ノアンは一瞬の隙を見逃さず向かって来るセンターバックの裏にグラウンダーのパスを放つと裏に抜け出した獅子がキーパーのタイミングを外すラボーナで同点に追いついた
「しゃー!!」
「良くやった修二!」
「あと1点、死ぬ気で行くぞ!」
「「「「おう!」」」」
「なんで蒼のコーチングを無視した!」
「やめろゲルト、あのままジリジリ来られてたらノアンにシュートを決められてた可能性もあった。どちらにしても厄介なパサーだ」
「すまねゲルト、蒼、オレのせいで」
「いや、俺の指示が遅れたのも有る後半はあと5分だ、追いつくぞ!」
「「「「おう!」」」」
試合はロスタイム2分に入るとドルトムントのコーナーキックのチャンスでキッカーは蒼、放たれたボールはゲルトのオーバーヘッドする足に一直線に向かうが、ノアンが間一髪クリアする
ドルトムント陣地にはセンターバック1人、修二がボールを拾いメイア・ルアでその1人を抜き去り残りはキーパーのみそのままセンターサークルからペナルティエリアまで猛スピードで駆け抜けて行く修二だが、後ろから足も巻き込まれる蒼のスライディングを受けペナルティエリア5メートル手前でフリーキックを獲得
審判が寄ってきてイエローカードが出されるも誰も彼を責めるものはいない。むしろ望みを繋げた英雄なのだから
キッカーはノアン、シュートもパスもあり得る距離でのフリーキック
「すまん!修二大丈夫か!」
「あぁ、大丈夫だ。にしても良く追いついたな」
「コーナー蹴った時ノアンが修二を見たからな、何か来ると思って猛ダッシュで戻っても修二のスピードには勝てねーから後ろから行っちまった。すまん」
「俺は大丈夫。でもな蒼、俺らの勝ちだ」
「え、」
ノアンの蹴ったボールは壁に割り込みボール1個分の隙間のあった修二の真上、ジャンプした蒼の真横を通りゴールに吸い込まれ長いホイッスルが鳴った
会場と選手それぞれが喜びと悲しみを顔に浮かべる中、2人の日本人が握手を交わしていた
「まさか蒼にコーチングセンスがあったとはな」
「いずれ俺は世界最高のサイドバックになってサッカー界に名を残してやる。次は負けねーからな」
「お互い目指すものがデカいな。次も俺が、いや俺達が勝つ!」
「次はPSVってことは拓真か、ウチのゲルトでもあいつから点取るのは至難って言ってたよ」
「上等だ。楽に勝たせてくれるとは思ってねーよ」
「頑張れよ修二」
「おう!ありがとな」
試合を終えホテルに帰ると応援に来てくれた家族と七瀬で夕飯を食べに行き、その後それぞれ自由行動となり修二は七瀬と観光に行った
「修二と初デートが海外なんて夢見たいやなぁ」
「そうだな、お!あそこ行こうぜ!」
2人は短くも充実した時間を過ごし、愛を深めていった
その頃、スタジアムでは
「5対0!ユベントス圧勝です!3得点のハルク!2得点3アシストのキング!このチームを止められる者はいるのか!」
観客は冷めているわけではないが歓声より魅入ってしまう完璧な攻めの組み立て。安定感抜群の守りに死角はあるのかと。
「勝ったな!キング!」
「あぁ、ハルクナイスシュートだ」
「運が良いのか悪いのか、準決まで俺達の相手になるとこは無さそうだが楽しもうぜ」
「準決?俺らの相手になりそうなチームが居るのか?」
「あのジャパニーズがハイスクールの時に相棒だった奴がいるチーム、ベルギーリーグ代表グラブ・ブルッヘだよ!」
「なるほどな。確か俺たちとタメのケヴィン・アザールも居たな。そこまで暇つぶしって訳か」
「サクッと優勝してロナウドさんに報告しようぜ!」
「そうだな」