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山下「お、これは・・・」
山下は自室でダークウェブを徘徊していると、とあるサイトが目に止まった。
ファションショーのモデル募集広告。
他の芸能事務所に所属していても可という案件だ。
これが、なぜ表ではなく裏サイトなのかと言うと、AV制作会社が募集していたから。
つまりこれは、企画物AVの出演者募集だった。
しかも普通に検索しても見付けられないような製作会社で、怪しい匂いがプンプンしていた。
山下「これは面白そうだ・・・相談してみるか」
翌日、山下は事務所で部長のアポを取り会議室へと向かった。
山下「部長、本日はお日柄もよく・・・」
部長「全く、君はロクな話しを持ってこんからな。さっさと用件を言え」
山下「これなのですが・・・」
山下は企画書を机上に出して見せる。
その企画書では、AV関連だということは伏せていた。
部長「・・・モデルのオーディション?」
部長は、またメンバーをくいものにするようなものを持ち込んでくるのかと思ってたのだが、まともな案件で驚いた表情をしていた。
オーディションの主催者には心当たりは無かったのだが、そこは特に気にすることはなかった。
部長「君にしてはマシな案件を持ち込んできたね。で、誰を」
山下(このタヌキはただのモデルオーディションだと思ってるな・・・予想通りだ)
山下「菅原です。休養明けですが彼女はモデル志望ですし、話題作りには良い機会かと」
山下はドラフト2期生、菅原茉椰の名前を挙げた。
部長「・・・大丈夫かね?まだ復帰したばかりなのに・・・」
山下「ええ。昨晩彼女に伺いをたてたところ、やってみたいと前向きな返事を貰っています」
部長「そうか。いいだろう、君に任せた」
山下「はい、ありがとうございます」
山下がうやうやしく頭を下げる。
山下「では、早速準備にかかります」
山下「あ、部長・・・」
会議室を出ていこうとドアに手を掛けた時、山下が声を上げた。
山下「夜寂しいことがあったら、言ってくれればいつでもりんか貸し出しますよ」
部長「き、きさま・・・!」
ガンッ!!
山下「ふふ・・・」
バタン
穏和に話が終わろうとしていたのに、部長ら頭に血が上り顔を真っ赤にしながら机を叩く。
山下はその様子にほくそ笑みながら、会議室を出ていった。
早速オーディション審査に提出するための書類をか書かせるために、菅原を呼び出した。
菅原「えっと・・・これも書かないとダメですか?」
応募用紙には身長、体重とスリーサイズを記入する欄があった。
山下「衣装を合わせるのに必要なんだろうな」
菅原(高校出てからサイズ測ったことないなぁ・・・でも、あんま変わって無さそうだからいっか)
体重以外の項目は、高校時代に採寸したものを記入していた。
菅原「ふ〜、終わったぁ。こんなに字を書くの久しぶり」
山下「お疲れさん。じゃあ、これで出しておくからな」
山下(後はこれに顔写真と全身の写真を付けて・・・宣材のを使えばいいか)
菅原「これ受かったら、ランウェイ歩けるんですね!」
菅原はうきうきした顔をしていた。
山下「まずは審査が通ってからだけどな」
それから一週間後・・・
何事も無く書類審査が通過した連絡がきた。
山下(通ったか。だが面接も無し・・・随分とあっさりしてるな)
菅原に審査合格の連絡をすると大喜びした。
その先に何が待っているのか、今はまだ知る由もない。
ただ夢への第一歩が踏み出せるということが、菅原の気分を高揚させている。
菅原は当日まで、ランウェイを歩くモデルの動画を見たりしてわくわくした日を過ごしていた。
後日、山下は送られてきた出演者のリストに目を通していた。
山下(5人・・・?少ないな・・・まあ普通のモデル募集じゃなかったから、こんなもんか。応募者全員合格したのかもな)
山下(それに、懐かしい名前も・・・俺の手がかかる前に辞めちまったからなあ・・・)
山下(でもこんなのに出演するってことは、卒業してからやることやってたんだな・・・)
数日後、ファッションショーの日を迎える。
本番は午後からだが、出演者はリハーサルのため早朝から集合していた。
菅原(あーー、緊張する・・・)
ぽんっ
緊張している菅原の肩を、後ろから誰かに叩かれた。
菅原(・・・?)
菅原「あ!嶺奈ちゃん!」
一色「まーやん、久しぶりー」
後ろに居たのは菅原と同期の卒業生、一色嶺奈だった。
菅原「びっくりしたー。嶺奈ちゃんも出るの?」
一色「うん!」
電話やメールでは時々連絡を取り合ってはいたのだが、直接会うのは卒業以来初めてだった。
一色「私もびっくりだよ!まーやんって、今はこういう仕事もしてるの?」
菅原「ん?こういう仕事って?」
一色「え、だってこれ」
『リハーサルをはじめます!出演者の方はこちらに集まってください!』
その先の一色の言葉はスタッフの呼び掛けにかき消されて、菅原の耳に入ってこなかった。
菅原「呼ばれた・・・嶺奈ちゃん、リハ行こ」
一色「あ。うん」
2人は手を繋いで、リハーサルへと向かっていった。